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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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は、紛れのない恐怖の色が混じっていた。
 人間の何倍もの歴史と文明を持ち、そしてメイジを遥かに超える強大な先住魔法を操る種族。
 動悸が早まり、杖を握る右手に、じっとりと汗が滲む。
 竜とエルフ。
 その二つが、タバサが最も相手をしたくない存在だった。
 成熟した竜の火力と生命力は、単純にメイジの魔法を凌駕しており、人の身でその存在に対することは自殺に等しい。
 そしてエルフは、様々な伝説、伝承、噂で耳にするその魔法の力。
 幼少の頃より囁かれ続けたエルフの恐怖が、歴戦の戦士であるタバサの心と身体を震わせる。
 エルフの力、それがただの与太話ではなかったことは、今自分の目で確かめた。
 フッ、フッと、何時からかタバサの呼吸が荒くなっていた。

「一つ……要求をしたい」

 『ネフテス』のビダーシャルと名乗ったエルフの男が、震え出したタバサを哀れんだ目で見つめながら口を開いた。

「……何?」
「なに、簡単な事だ。ただ抵抗しないで欲しいということだけだ。我らエルフは無駄な争いは好まない。だが、ジョゼフとの約束で、お前がどう思おうと、私はお前をジョゼフの元に連れて行かなければならない。お前には出来れば大人しくついてきてもら―――」

 エルフの言葉を止めたのは、突然部屋の中に発生した凍えた強風であった。
 ジョゼフ―――父親の仇の名が耳に入った瞬間、エルフの存在に震えていた心と身体がピタリと氷ついたように固まり。これまでに倍する怒りと憎しみが氷つく心を荒れ狂わし。その影響は、現実世界にも及ぼし始めた。
 氷の粒が混じった風は、部屋の中で渦を巻きその強さを増し始める。
 唐突に発生した局地的災害の発生源はタバサであった。
 轟々と荒れ狂う風の中心で、タバサは平坦な声音で呪文を紡いでいる。
 
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……」

 タバサが唱える呪文はトライアングルスペル。
 だが、その力はトライアングルを超えた先、スクウェア。
 何時からか、荒れ狂った怒りがタバサを一段階上へと押し上げていた。
 更に強い感情は、魔力の総量を押し上げると言われる通りに、タバサが唱えるトライアングルの魔法は、スクウェアクラスに達していた。
 呪文を唱え終え、魔法が完成する。
 凍った空気の束が、タバサを中心に円環を作り。それが回転し風を巻き起こす。部屋の中に、嵐が吹き荒れた。
 氷と風が混ざり生まれたその魔法の名は、『氷嵐(アイス・ストーム)』。
 触れれば一瞬で身体を切り刻む死の風吹き荒れる嵐。
 机、椅子、壁、本棚……死の嵐は部屋を千々に切り刻む。
 タバサが杖を握る手を掲げると、荒れ狂う氷嵐(アイス・ストーム)の中心が、身体から掲げる杖に移動し。

「―――ッ!」

 嵐を纏
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