第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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撫でた。
「我々にとって、『本』というものは、後の世に引き継ぐべき事柄や歴史を記したものであり、まず何よりも正確でなければならない。だが、お前たちは違う。歴史に独自の思想や考えを書き加え、娯楽として作り変える……ふむ、面白いものだな」
淡々とした声の中に、何処か笑いが混じらせながら、男は手に持つ本に視線を落とした。
「特にそう、これだ。お前はこの『イーヴァルディの勇者』という物語を読んだことはあ―――」
男の視線が動いた瞬間を逃すことなく、タバサは魔法を再度放った。放った魔法は同じ氷の矢。だが、数は最初の倍以上。全方位から男に襲い来る氷の矢。
だが―――。
「―――るか?」
氷の矢は男に突き刺さる直前中空でその動きを停止させると、床にその身を落とし砕け散った。
殺されかけたというにもかかわらず、男は変わらず話を続けている。
「対立しているはずの我らの聖者の一人を、お前たちは勇者と呼ぶとは……本当に興味深い」
タバサの頬を一雫の汗が伝い……床に落ちた。
わからない……何故、氷の矢がその動きを途中で止まるのか。その理由がわからず、焦りだけがつのり、タバサの顔に陰が差す。
魔法……だとは思う。
しかし、その魔法が何なのかがわからない。
ぐるぐると思考が回る。
しかし、解答は出ない。
風? 火? 水? 土? だが……そんな魔法は見たことも聞いたこともない。
系統魔法……ではない?
カラカラと空回りしているだけの思考が、ある考えに至ると共にカチリと止まった。
系統魔法ではないのならば、残るは一つしかない。
そう、この世界には、系統魔法以外にも魔法はある。
そのことを、タバサは身を持って良く知っていた。
北花壇騎士としてこれまで幾度も戦ってきた亜人が使用していた……それは、
「先住―――魔法」
「―――何故、お前たちは、そのような無粋な呼び方をするのだろうな?」
タバサの言葉に、男は本に落としていた視線を上げると、苦い声を上げた。
「その様子。ああ、もしやお前は、私を蛮人と勘違いしていたのか?」
タバサに顔を向けた男は、頭に被った帽子に手を伸ばし、それを頭から外した。
「私は『ネフテス』のビダーシャルと言う。この出会いに感謝を」
男が帽子を外すと、その下から現れたのは、金色の髪から覗く―――尖った長い耳。
男の正体、それは―――
「ッ?! ……エルフ」
ハルケギニア東方の砂漠に暮らす、人間とは異なる長命の種族―――エルフであった。
驚愕の声を喉で押し殺したタバサは、短く男の種族の名前を呼ぶ。
その声に
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