第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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男は壁沿いに設置されている本棚の前に立ち、タバサに背中を向けている。
開いている窓から風が吹き込み、タバサの足元に降り積もった扉の残骸である木屑が舞い上がり、視線の先に立つ男の長い金の髪が揺れた。
タバサの目が細まる。
母の居室には母親の姿はなく、代わりに見知らぬ男の姿が。
状況からすればこの男が自分に対する刺客なのは間違いないだろうが、敵を背に本を読みふける刺客などタバサは聞いたこともない。
だが、油断はしない。
男の背中に杖を向けたまま、タバサは口を開く。
「母はどこ?」
タバサの声の余韻が消えた時、パタンと本を閉じる音が部屋に響き。無意識に、タバサの喉がゴクリと動いた。
「ん?」
疑問の声を上げながら、男は振り返った。何も怪しい動きのない、普通の、ごく自然な所作。
だけど何故か、気味が悪く感じる。
「母……と言ったのか?」
男の声は高く。まるでガラスのグラスを打ち付けたような高く澄んだ声であった。
タバサを見る目は切れ長で、その瞳は薄いブルー。線の細い、美しい男だった。
だが、その年齢を推し量ることは難しかった。肌の色艶や体格等、見た目的には二十歳前後に見えるのだが、身に纏う雰囲気がそれを否定するのだ。線の細いその身体から滲み出る、奇妙な雰囲気により、年齢を推し量ることを難しくしていた。
だが、男の見かけや歳など、今のタバサには全く関係も興味もなく。
「……母をどこにやったの?」
再度変わらない声音で、タバサは男に問いただす。
タバサの問いに、男は口元に薄い苦笑いを浮かべると、閉じた本の表紙を撫で口を開いた。
「お前が言う『母』とは、今朝、ガリア軍が連行していった女性のことを言っているのか? 残念ながらわたしは彼らがどこに行ったのかは知らない」
男の返事を聞くと、タバサは無造作に杖を振った。中空に現れた氷の矢が男に向かって走る。
冷たく鋭い氷の矢が、男の胸を貫く―――ことはなかった。
氷の矢は、男の胸を貫く直前。その胸の前でピタリと停止していた。
タバサの眉がぴくりと動く。
障壁?
しかし、それにしては、まるで矢が自ら止まったような気がしたが……。
魔法―――なのだろうか……?
タバサの耳が確かならば、男が呪文を唱える声は聞こえなかった。
ぞわりと背中に走る悪寒に、タバサは腰を落とすと、男の動きを見落とさないように鋭く目を光らせる。
中空に停止していた氷の矢が、床に落ち澄んだ音を立て砕けた。
「ふむ。しかしこの『物語』と呼ばれるものは素晴らしい」
警戒を露わにするタバサを、しかし男は気にすることなく、手に持つ本の表紙を
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