第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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だ扉を破壊しながら、矢が一斉に襲いかかってきた。
しかし、その矢尻がタバサの身体に届くことはなかった。
その時には既に、氷の壁がタバサの周りを囲んでいたからだ。
数十の矢の鋒は、現れた氷の壁に深々と突き刺ささるが、一本たりともタバサに身体に辿り着いたものはなかった。
しかし、襲撃はそれだけで終わりではなかった。
破壊された扉の奥から、剣を構えた兵士たちがタバサに向かって襲いかかってきたのだ。前と後ろから剣を振りかぶりタバサに襲い来る人影、しかしそれは、人ではなく、魔法人形―――ガーゴイルであった。
一斉にタバサに襲い掛かるガーゴイルの数は十を優に超えていた。
死を恐ることがなく、しかも頑丈。ドット程度の魔法ならば、止めることも出来ずそのまま切り伏せられてしまう。そんなガーゴイルが前と後ろから同時に剣を振りかぶり襲いかかってきているのだ。しかもタバサの周囲には、未だ氷の壁があり、それで剣を止められる可能性は低く、逃げようにも氷の壁が回避の邪魔となっていた。
だが、窮地に追いやられている筈のタバサの目に、焦りの色は欠片も見えなかった。
杖を握る右手を軽く上げる。
動作としては、ただそれだけだった。
しかし、その結果は劇的であった。
タバサを囲む氷の壁が、まるで爆発したかのように吹き飛んだのだ。
カタパルトで射出されたかのように、高速で打ち出された氷の壁は、巨大な弾丸となって迫るガーゴイルに襲いかかり。その命なき身体を粉々に砕いた。大きな屋敷であり、その廊下も広いとは言え、その廊下を塞ぐほどの巨大な氷の壁から逃れることが出来るはずもなく。抵抗する間も、逃げる間もなく車に轢かれた虫のようにガーゴイルは粉々に吹き飛ぶことになった。撃ち出された氷の壁は、ガーゴイルの引き壊した後も止まることはなく、そのまま廊下の突き当たり―――タバサの母親の居室の扉も粉々に破壊した。
木屑が、砂煙のように宙を舞う。
その全てが床に落ちると同時に、部屋の中に踏み入いる者がいた。
タバサだ。
タバサは母親の居室に踏み入ると、確かめるように部屋の中を見渡す。
―――ベッド。
―――小机。
―――椅子。
母親の姿は―――ない。
そのことに気付いたタバサの眉が、微かに動いた。
その時、パラパラと本がめくられる音が部屋の中に響いた。
全く気配を感じていなかったタバサが、反射的にその音が聞こえた方向に杖の切っ先を向ける。
タバサが破壊した部屋の扉の向かいに設置された本棚の前。
杖の先、タバサの視線の先にいたのは、薄い茶色のローブを着た、痩せた長身の男だった。男はつばの広い、羽が付いた異国のものと思われる帽子を被っており、その隙間からは腰まで届くだろう長い金髪が溢れていた。
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