第十章 イーヴァルディの勇者
第二話 囚われの……
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ガリアとトリステインとの境に広がるラグドリアン湖。そんなハルケギニア一と名高いラグドリアン湖の近くに、古ぼけた一軒の屋敷があった。
その屋敷が何者の物なのかは、入口の門に刻まれたガリア王家の紋が示していたが、その紋章の上には不名誉印として十字の傷が刻み込まれていた。
不名誉印が刻まれたその屋敷は、タバサの母親が暮らす家―――旧オルレアン家の屋敷であった。
そんな屋敷の前に、草木を揺らしながら風竜に跨った一人の少女―――タバサが舞い降りた。
風竜を横に従え立ち尽くすタバサは、細めた瞳で不名誉印が刻まれた門を見上げる。
雲一つなく広がる青空から振り注ぐ陽光に、目が眩んだかのように細めていた瞳を完全に閉じたタバサの脳裏に、夜明けに破り捨てたガリア王家の版が押された手紙の内容が過ぎった。
手紙には、短く。
『シャルっロット・エレーヌ・シュヴァリエ・ド・パルテル。右の者の『シュヴァリエ』の称号及び身分を剥奪する。追って上記の者の生母、旧オルレアン公爵夫人の身柄を王権により拘束する保釈金交渉の権利を認める由、上記の者は、一週間以内に、旧オルレアン公爵に出頭せよ』
と、そう二つのことが書かれていた。
一通り手紙に記載されていた内容を思い出したタバサは、杖を持つ右手に力を込める。小さな掌に包まれた大きなふしくれだつ木の杖が、ギシリと悲鳴を上げた。
目を閉じたまま顔を下ろしたタバサが、そっと瞼を開く。
巫山戯た奴らだと、タバサはギチリと奥歯を噛み締めた。
何が『保釈金の交渉』だ。
仰々しい言葉で着飾らせても、言っていることはただ―――『お前の母親は人質だ。さっさと投降しろ』。
……大人しくその言葉に従って投降すれば、裏切りに対する形だけの裁判が開かれ……運が良ければ絞首刑……悪ければ―――っ考えたくも、ない。
タバサの脳裏に、この三年の間に見た様々な地獄の光景が過ぎる。
その中には、何の力も持たない女たちが、男たちの欲望に餌食になる姿もあり。男たちの中には、自分のような体付きの少女を好む者がいることを……タバサは良く知っていた。
「―――ッ」
喉の奥からこみ上げる吐き気をゴクリと飲み干したタバサは、春の暖かな空気を孕む風に髪をなびかせながら歩き出す。柔らかな陽光に温められた風は、しかし冷たく凍えたオーラを身に纏うタバサに触れた瞬間、極寒の地に吹きすさぶ風へと変わる。
タバサの足が、門を一歩超えた瞬間、『きゅい』と風竜が小さく震えた声を上げた。
足をピタリと止めたタバサが振り返ると、門の向こうで『ちょこん』とお座りした自分の使い魔と目が合う。
風竜の大きな瞳が、投降するの? と問いかけていた。
「……あなたはそこで待ってて」
待つように指示するタバサの
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