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銀英伝小品集
帰ってきたリオ・グランデ
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 新帝国暦四年のある時期、ハイネセンに住居をかまえていたオリビエ・ポプランもと同盟軍中佐は自宅に二組の訪問者を迎えていた。
 二組目の訪問者ヤン元帥、ビュコック元帥二人の未亡人とダスティ・アッテンボローもと中将、カスパー・リンツ画伯の来訪は事前に連絡されていたが、この日最初の訪問者はアポなしで訪れていた。女性関係でも撃墜王であったポプランは突然の訪問者には慣れており、訪問者の性別と目的に応じた対処法も心得ていたが、それは少なくとも会話が可能である「腰の下に足が二本ついており、歩く時足を交互に動かす」訪問者対象のものに限定されていた。「推定体重4キログラム以下、歩く時足だけでなく手も地面につけて歩き、人語を話さない」訪問者への対応は彼のマニュアルには記載されていなかった。
 「あらあら、ずいぶん小さなお客さんね」
 素手での格闘においても非凡なセンスを有する撃墜王──より正確には主として彼の顔面と腕部──に少なからぬ負傷を強いた先客へのビュコック夫人の最初の感想はそれであった。
 「リオ・グランデという種類だそうですよ」
 「そうなの…」
 先客に朝食をふるまい、もてなす間に仕入れた知識を披歴しながら、ポプランは不機嫌そうな顔であった。浮かぬ顔の理由が恋愛対象外の存在から受けた負傷にあることはまずもって間違いがなかった。
 「小さな虎みたいだな」
 そう言いながら片手を伸ばし、リンツは驚くほどあっさりとポプランの客人を捕虜にした。地に足をつけて戦う戦士にとって『薔薇の騎士』連隊は天敵であるという常識は、人間以外に対しても通用するものであるようだった。
 「だろ?どう見ても完全な陸上生物だ。鱗の一枚もありゃしない。そのくせ名前が『大きな河』だなんて、作出者のセンスを疑うね」
 この数年間に転職を果たし、使用する絵の具の色数が格段に増え、絵筆の重さが際立って軽くなった気鋭の画家の賛辞にも、彼は不満そうであった。ハンバーガーよろしくかじった知識をシャープペンシルの芯のように小出しにする間もずっと、元撃墜王は口をとんがらせていた。
 「そうおかしな話でもないさ。虎は泳ぎが得意だ。川を泳いで渡る」 
 ラフなスーツ姿のアッテンボローの指摘も、ポプランの憤懣やるかたない表情を変えさせる効果はないようだった。もっともこのジャーナリストの本分を十二分以上に果たしてなお働こうとするかつての青年提督に、罪のない口論を楽しんでやろうという意図以外のものがあるとは、この場の誰一人として思ってはいなかったが。 
 「おかしな話さ。作出者のいた国、千六百年前の東方の島国なんだが、そこには野生の虎もいなけりゃ大陸規模の川もない。どうだ、ジャーナリストとして連載の一つも書けそうな謎じゃないか」
 「ジャーナリストとしては迷命名の経緯よりも、その泳ぎの得意な手乗りの
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