Episode3 滝の前
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なんてないと思うけど一応準備しとけよ!」
思考に割り込んで来たのはアキの声だ。その言葉が示す通り目的地の滝はすでに目と鼻の先であり、そのためアキも少しばかり声を張り上げている。
考えのまとまっていない俺は立ち止まりアキに声をかけた。
「頼む、ちょっとだけ待ってくれ」
「えっ?聞こえないんだけど?」
だが、滝音のせいで声が上手く伝わらない。
「だから、ちょっと待ってくれって――」
「うわぁぁ!!」
もう一度頼もうとした俺の声に別の音が重なった。これは人の声だ。
「なんだ今の?…っておい、お前!勝手に先に行くなよ!」
アキの制止の言葉も聞かずに俺は駆け出していた。ほとんど条件反射だ。
ジンの言うようにこのクエストでこの場面でNPCの出番がないのならば、今の声は間違いなくプレイヤーのものだ。…だとしたら、たまたまこの辺りで狩りをしていたプレイヤーか、もしくは俺達と同じようにクエストを受けた者か……。
そんなふうに考えていたから滝の正面に着いたときの驚きはかなりのものだった。そこには二人、というより一人と一匹がいた。
一匹は言うまでもなくクエストボスたる二足歩行の魔物だ。狼が立って歩いているようなそいつは右手に短剣を携えている。だが、それより驚くべきはモンスターの左手にホールドされてしまっている者だ。
全体に白いコックのような服装。その上を申し訳程度の金属鎧が包んでいるのだが、その彼のカーソルがどう見ても《NPC》を示すそれなのだ。
しばし呆然と立ち尽くしているとジンとアキが追い付いて来た。だが、二人も俺と同様状況をどう判断したものか迷ったのだろう。同じように動く気配を見せない。
その時、モンスターが動きを見せた。左手の男性を腕をいっぱいに伸ばして突き出し、右手の短剣を脇を絞めて構える。完全に攻撃体制だ。そして、右手に捕まっている店主らしき男性のHPはすでに赤の危険域だ。
「ダメだ!やられる!」
そういって俺が駆け出そうとした瞬間、すぐ脇を何かが猛烈なスピードで通り過ぎだ。
その小柄な影は一直線にクエストボスの元へと駆けていくと、その小さな体に不釣り合いな大剣を一息に抜き放った。
「えぃっ!」
気合いの乗った抜刀の一撃がクエストボスの左手を直撃し、店主が解放され地面に落ちた。
攻撃されたことで後ずさったクエストボスに真っすぐな視線を向けながら小さな剣士は言い放った。
「オオカミさんっ、イジワルしちゃダメですっ!!」
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