暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜黒の剣士と紅き死神〜
マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
黒の剣士と紅き死神
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緊迫した観客席でそんなコメディが展開されているとは露知らず、当事者たる2人は無言でいた。

いや、話す余裕が無かったと言った方が正しい。舞台に上がった瞬間、直前までの悩みは消え去り、相手の挙動をひたすら観察していた。

《黒の剣士》キリトは何時もの黒の戦闘衣にモンスタードロップの黒剣、それを右手で下段に構えている。SAO時代から変わらない、多くの片手剣用ソードスキル発動モーションに繋げる事が出来る自由度の高い構えだ。

対する《紅き死神》レイも何時もの黒地の革防具に紅いマント、そしてそれの腰辺りを例の黒帯で巻いている。抜いた大太刀を体に引き付けながら後ろに流し、キリトに向かって半身の姿勢で構える。


カウントが減っていき、残り10秒程になったとき、2人はどちらからという事もなく笑みを浮かべていた。


そして―――カウントゼロ。





―ギィン!!





フライングがセーフか際どいタイミングに舞台の中央で互いの剣が鋭い金属音を鳴らした。

筋力値は僅かにレイが上、体格差もあって押し返されたのはキリトだ。しかし、それは2人には想定内の出来事だ。
キリトは接触した瞬間、弾かれる慣性を翅で調節し、体勢を崩さない。
レイもすぐさま重心を直し、キリトの次の攻撃に対応出来るようにする。

キリトは腰からピックを3本抜くと一息に投擲、レイは手首の動きのみで大太刀を回転させると、それらを全て弾いた。
地面に着地したキリトは隙を見せる事無くすぐにレイに肉薄し、大太刀の苦手な間合いである懐に入る。

レイも自分の武器の弱点の間合いぐらいは心得ている。懐に入られても彼の体術ならばそれを打開する程度の事は造作もない。
だが、片手で大太刀を保持し、片足でバランスを取り、腕と足一本ずつでキリトレベルの技術を持つ剣士を相手にするには少々分が悪かった。

斬撃が二閃ほどヒットし、HPが1割減少する。
が、代わりにキリトのジャケットを掴むことに成功し、体当たりをするように踏み込んでキリトの軸足を崩すと地面に投げ倒し、突き出した状態になっている左掌に大太刀をあてがう。


モーション検知、ソードスキル発動。


出が最速の大太刀突き技基本ソードスキル《穿(うがち)》がシャッ、という控えめな空気の破裂音と共に撃ち出された。
キリトは転がってそれを回避しようとしたが、僅かに胴をかする。それでも両手武器の攻撃力は高く、HPはレイと同値まで減った。

一見互角に見える戦いは実のところ、レイが有利だ。キリトの片手剣が通常ヒットでHPを1割削ったのに対し、レイの大太刀はかすっただけで1割を削る。
プレイヤー自身の総合力で互角なら差を生むのは『火力』。現時点でキリトがこれでレイを上回る術は無い――
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