第六章
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「だからおるのじゃ」
「そうだったのか」
「それでじゃが」
老婆は二人に言ってくる。
「御前さん達に今投げたものじゃが」
「お白粉だな」
「お化粧に使う」
「そうじゃ、これはおなごが化粧に使うものじゃが」
このことはその通りだ、だがそれだけではないというのだ。ここにある意味は。
「花魁はこれで顔も首も手も真っ白にしていた」
「吉原のだな」
王島が言う。
「そうだな」
「知っておるか」
「知識としては知っているさ、俺もな」
王島は手で顔や服に付いたままのそのお白粉を払いながら老婆に応える、いい匂いがするが妙に鬱陶しく感じたからだ。
それは若田部も同じだ、見れば彼も払っている。
その彼を見ながらだ、王島は老婆に言うのだ。
「もう花魁さんもいないがね」
「そうじゃな」
「それでさっきの笛だけれどな」
今度は王島から老婆に言った。
「あれだな、人買いの笛だな」
「その通りじゃよ」
「夜の笛か」
人買いが来たという合図、その笛なのだ。
「それか」
「そうじゃ、わしのお白粉と笛はな」
「花魁か」
「この辺りのことも知っていよう」
老婆は曲がった腰をそのままにして二人の顔を見て言った。
「この辺りはよくじゃ」
「娘を売って花魁にしていた」
「そうでしたね」
「この辺り全てがじゃ」
つまりだ、東北全域がだというのだ。
「少しでも食えなくなるとそうしていた」
「昔はそうだったんだな」
「ほんの七十年位まではな」
戦前まではそうだった、二・二六事件にしてもそうした姉や妹達を持つ東北出身の兵達を見てきた青年将校が現状を憂いていて起こしたという一面がある。
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