第二章
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「それこそ大海の中のスプーン一杯だよ」
「私達が今持っている知識は」
「そう、それだけなんだよ」
こう話すのだった、キャサリンに。
「それでどうして恐竜がいないなんて断言出来るのか」
「だからなのね」
「そう、けれどここはね」
ネス湖のその今は静かな水面を見て言う。
「違うよ」
「海から離れている湖に」
「そう、いる筈がないんだ」
彼が検証した結果そうとしか思えないというのだ。
「どうしてこんな湖にネッシーがいるのか」
「じゃあこれまでの目撃例はどうかしら」
「見間違いだよ」
「全部?」
「生物学的にこんな場所に首長竜なんていられないからね」
それでだというのだ、ヘンリーはネス湖についてはこう言うのだった。
そうした話をしながら二人でほとりを歩いていく、その中で。
キャサリンはネス湖とその周りの風景を見ながらヘンリーに話した。見れば今もにこりとした穏やかな表情である。
「綺麗ね」
「綺麗な湖だよ」
ヘンリーも景色に興味がない訳ではない、それでキャサリンのその言葉には彼お穏やかな笑顔で応えた。
「湖も周りもね」
「特にね」
キャサリンは古城の方を見た、山のところにあるその古城を。
「あのお城がいいわよね」
「うん、僕もあのお城に行ったことがあるよ」
「ただのお城だけれど」
「綺麗よね」
「お城はそこにあるだけでは完璧じゃないんだよ」
「その場にあるからよね」
「そうさ、ノイスバンシュタイン城も」
ドイツバイエルン地方にある城だ、ワーグナーをこよなく愛したバイエルン王ルートヴィヒ二世が自身の美を再現させた城だ。
「あの山の中にあるからこそ」
「最高の美を見せているのよね」
「あの城はあそこにあるだけでも綺麗だけれどね」
だがさらにだというのだ。
「緑の山々の中にあるからこそ」
「あれだけ映えるのよね」
「そうさ、だからあの城も」
ヘンリーは今もその城を見上げている、そのうえでキャサリンに話すのだ。
「あそこにあるからね」
「美しいのね」
「そうさ、ネス湖のほとりにあるから」
それ故にだというのだ。
「そうなんだよ」
「確かに綺麗よね」
「うん、ネス湖自体もね」
そのネス湖、彼等の右手に広がるこの湖もだというのだ。
「綺麗なんだよ」
「確かに綺麗よね」
「ネス湖はいい湖だよ」
こうも言うヘンリーだった。
「ただそこにあるだけでね」
「ネス湖自体は好きなのね」
「好きだよ」
その通りだとだ、言葉は飾らずそのまま述べたものだった。
「何度観ても飽きないよ」
「そこまで好きなのね」
「そうだよ」
「しかも恐竜の存在自体は否定しない」
「けれどネッシーは、っていうんだね」
「そうなのね、ネッシーの存在は否定するのね」
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