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アジアの踊り
第一章
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                  アジアの踊り
 シンガポールは東南アジアの中心にあると言っていい。
 だからこの街、都市国家であるから街自体が国であるがここには色々な国から人が集まる。国土は狭いが人は多種多様だ。
 その中においてだ、今タイから来たクルーバスリー=サイチチャンはピアノのあるバーにおいて難しい顔でマスターにこう言っていた。
「あの、この国にはいつも来てるよ」
「それでもですね」
「うん、それでもね」
 タイの強い酒を基にしたカクテルを飲みながらマスターに言う、シンガポールだけあってバーでも店お壁には多くのマナーに関する注意書きがある。
 それを見つつだ、彼はこうマスターに言うのだ。
「ここにいるとね」
「息苦しいんだね」
「僕の国はおおらかだからね」
 タイは、というのだ。
「それでシンガポールはこれだからね」
「まあタイ人からすると厳しいね」
「マスターは生まれも育ちもここだよね」
「そうですよ、ここですよ」
 シンガポール生まれのシンガポール育ちだとだ、マスターはバーテンダーの白と黒の洒落た格好でカクテルをシェイクしながらサイチチャンに言う、黒髪をオールバックにした背の高い薄い肌色の端正な中年である。 
 その彼が本来は明るい目を浮かないものにさせている彼に言うのだ、サイチチャンは細い黒髪をドレッドの様に伸ばしタイ人らしく日に焼けた痩せ気味の明るい顔である。服もラフなものだ。
「ずっと」
「だよね、華僑で」
「はい、そうです」
 マスターはルーツのことも話した。
「国籍はここですよ」
「だよね」
「シンガポールは確かに色々と口五月蝿い国ですね」
「全くだよ、食べ物も料理も美味しいのに」
 それでもだというのだ、サイチチャンも。
「そこがね」
「困りますね」
「うん、こうした時はぱっと踊ってね」
 そうしてだとだ、サイチチャンは困った顔で話していく。
「明るくなりたいね」
「踊りですか」
「そう、タイの踊りでもね」
「あれですか?ムエタイの時でも踊る様な」
「あれだね、やっぱりあれはいいよ」
「踊りは踊っていいですよ」
 決まりばかりのシンガポールでもだ、それはいいというのだ。
「このお店では」
「いいんだ」
「はい、そうです」
「じゃあ僕がここに踊ってもいいのかな」
「どうぞ」
 マスターはにこりと笑ってサイチチャンに答えた。
「私も踊りますし」
「えっ、マスターが?」
「若い頃はビンセント=リューといえば知られていました」
「へえ、そうなんだ」
「そうです、その頃はバーテンダー兼ダンサーでした」
「ダンサーねえ」
「タンゴが得意でした」
 アルゼンチンのそれがだというのだ。
「今は踊りませんが」
「へえ、タンゴねえ」
「お相手
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