最終話「黒崎麗華」
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あぁ、だからどうでも良いなんて思い始めたのか。
麗華は自分の気持ちを自覚するが、自覚したからといってどうなるわけでもない。ただ何をする気力もなく、落ち込むことすらせずに、ただただベッドでぼーっとしていた。無気力な怠け者のように、ぼーっと天井を眺めていた。
「私は……」
もう元には戻れない。
虚しい思いで胸にぽっかりと穴をあける。
そんな時だった。
「お姉ちゃん? 入るよ?」
ドアを軽くノックしながら、アケミが恐る恐る遠慮がちにドアを開け、ヨタヨタ足で麗華の元へ歩んできた。
「どうしたの? アケミ」
「うん。あのね、お姉ちゃんに剣道教えて欲しいなって」
アケミは照れたような顔でそう言った。
「剣道、やりたいの?」
「うん。だってお姉ちゃんすっごく強いから、私もお姉ちゃんみたいになりたいの!」
小さな妹に力強く言われた瞬間、胸を強く打たれたような衝撃を感じた。今まで部員から憧れの眼差しを受けたことなら、それはいくらでもあった。しかし、家族はあまりにも身近な存在過ぎて、逆に盲点だったのだ。
「私、みたいに?」
麗華は俯く。
アケミが見ているのは強かった麗華であって、堕落した麗華などではない。果たして、今の自分にアケミを指導する資格があるのだろうか。
「私だって強いばかりじゃない。私だって負ける。どんなに踏ん張っても、結局は駄目な時だってある」
「でも、お姉ちゃんはそれでも勝ったよ?」
「……え?」
麗華は首を傾げるが、アケミは力強く言ってくる。
「だってそうでしょ! お姉ちゃんだって、最初から強かったわけじゃないの知ってるよ。昔はいっぱい負けてたし、あの時は初心者だったから、頑張っても勝てない相手はいたと思う。それでも頑張って頑張って、初心者じゃなくなって、前までなら絶対に勝てなかったような相手に勝ってきた。私、そんなお姉ちゃんの姿を知ってるもん!」
「アケミ……」
「だから私もね、強くなりたいなって。負けないように、負けたってくじけずにいられるようになりたくて、だからお姉ちゃんと同じ剣道がやりたいの!」
ああそうか、何て大事なことを忘れていたのだろう。
負けてもいいんだった。
大切なのは勝ち負けではなく、例え負けても強い心の芯を保っていられる精神だ。芯さえ強くあり続ければ、自然と心も体も強くあろうとする。そうやって、進化の道を歩き続けていくことが大事なのだ。
だとしたら、今からでも逆転できるだろうか。
わからない。
わからないが、やってみなくては始まらない。
「わかったよ。アケミに剣道を教えてあげる」
「やった。じゃあ約束ね?」
「うん。約束」
二人は指きりげんまの小指を結び、幼くも可愛いアケミに向かって、麗華は優しい笑みを投げかけていた。
*
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