第四十四話 これで俺もバツイチだ
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閣下を嫌っているようには見えない。
「本当に済みません、私の我儘なのに……」
「……お前が自分で考えた上で決めた事だ。私はお前の意思を尊重する」
「……」
「お前が爵位、領地を返還されたと知ればお前の周囲にはお前を利用しようとする人間が群がるだろう。困った事が有ったら遠慮せずに私に相談しなさい。ゲラー弁護士にもお前の事は話してある。彼はお前の顧問弁護士になっても良いと言っていた。一度会って話をしなさい」
「はい」
宰相閣下が離婚届にサインをした、そして夫人に渡す。受け取る夫人の手は微かに震えていた。
「さっきの書類をアイゼンフート典礼尚書に見せなさい。お前をグリューネワルト伯爵夫人として貴族名鑑のデータベースに登録してくれるはずだ。領地もお前の物として登録される」
「はい」
夫人が答えると宰相閣下は頷いた。
「私からは以上だ、何か有るか?」
「いいえ、有りません。これまでお世話になりました」
夫人が頭を下げた。
「いや、世話になったのは私の方だ。感謝している」
少しの間二人が見詰め合った。やはりこの二人は愛し合っているとしか思えない。
「御身体にお気を付けてください」
「そうだな。お前、いや、伯爵夫人も気を付けられよ。オーディンはこれから寒くなる」
「……はい」
夫人はもう一度頭を下げると静かに部屋を出て行った。それを見届けてから宰相閣下は文書の決裁作業に戻った。
「宜しいのですか?」
「……」
私が問い掛けても宰相閣下は視線を文書に落したままだった。サインをして次の文書に手を伸ばす。
「閣下?」
文書から視線を上げた。いつもと変わらない。
「もう終わった事だ、気付かなかったのかな、フロイライン」
本当に終わったのだろうか? 二人とも愛し合っているのに? 伯爵夫人と呼ばれた時、夫人の身体は微かに強張った。夫人にとって“伯爵夫人”と呼ばれることは予想外だったのだ。偶然か、故意か、宰相閣下は“伯爵夫人”という呼びかけでもう夫婦ではないのだと夫人に伝えたのではないだろうか、或いは自分自身を納得させたのか……。
決裁を手伝いながら考えていると宰相閣下がミューゼル少将を呼ぶようにと命じた。ミューゼル少将は夫人の弟の筈だったはず、御自身で離婚を説明するのだろうか? 不審に思いながら元帥府に連絡を取りミューゼル少将の呼び出しを依頼した。
決裁を続けていると十分程でミューゼル少将が現れた。直ぐに執務室に通され宰相閣下の前に立つ。宰相閣下も若いがミューゼル少将も若い。二人とも帝国軍でも最も若い将官だろう。宰相閣下はミューゼル少将が執務机の前に立っても決裁は止めなかった。
「妻と離婚しました」
「は?」
「私の妻、少将の姉であるアンネローゼと離婚しました。理解出来ましたか、ミューゼル
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