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魔石の国―Law and affection―
魔石の国―Law and affection―
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ありませんよ」
「そうそう。キノはどんな話でも喜んで聞くしさ」
 女性はホッとした表情を浮かべた。
「よかった。ありがとうございます、こんな話を聞いて下さって」
 柔らかく女性は微笑し周りを見回した。
「そろそろ私は家事に戻らなければなりませんね。キノさんとエルメスさんは宮殿へ行かれるんですよね?」
「はい、食事に呼ばれていますので。そこへ行く道程を教えて頂けるとありがたいです」
 キノは言った。
 女性によると、宮殿はこの池よりもさらに森の奥へと続く一本道を、真っすぐ歩いていったところにあるらしい。
「宮殿の門には見張りがいるはずですから、その人達に用件を告げるとよいと思います。それから宮殿の近くに黒い屋根の立派な塔があるんですが……」
 ここで女性は声を強め
「その塔には絶対に近寄らないで下さい。絶対にですよ」
念を押すように言った。
「キノさんとエルメスさんだけでなく私達も塔へ行くことは固く禁じられているんです。だからどうかお願いします」
「わかりました。その塔には近付かなければいいんですね」
「はい。宮殿までご案内できなくて本当にすみません」
 頷き、女性は申し訳なさそうに謝った。









 左右は木々で囲まれ、一本の踏み固められた道が続いていた。
 頭上からは天頂に近付きつつある、日の光が射し込んでいる。
 キノはエルメスを押し、歩いていた。
「モトラドが走れないなんて……」
「仕方ないだろう。エルメスに乗らないことが入国条件の一つだったんだから」
「そうなんだけどさー」
 エルメスのぼやきを聞き流しつつ、キノは黙々と歩みを進める。
 代わり映えのない景色が続き、太陽が天頂へと昇った頃。
 前方で木々の間から宮殿のものと思われる、三本の砂色に藍色の曲線が描かれた、尖った屋根が伸びているのが、微かに見えて来た。
「キノ」
 ふいにエルメスが声を出す。
「どうした、エルメス」
 キノは右手をホルスターへとあてる。
「左斜め四十五度前方を見て」
 キノは言われた方へ視線を遣る。
 木と木の間から、黒いずきんを被った灰色の髪の子供が走って行く後ろ姿が小さく見えた。そして徐々に遠ざかっていき、やがて見えなくなる。
「今の子がどうかしたのかい?」
 キノは足を止め子供が去っていった方角を見つめる。遠くに、森に埋もれるように黒い尖ったものが先端だけを突き出していた。
「近付くなと言われた塔かな」
「そうだよ。あの子、その塔へ向かってた。しかもあの夫婦の子供だったよ、キノ。何しに行くつもりなんだろう?」
 キノは立ち止まったまま、少年の消えた方を眺めていたが
「わからないよ」
と答え、歩き始めた。
「ボクが今するべきことは、宮殿へ行き旅の話をして、昼食を食べ
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