六月 野心なき謀略(四)
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久大尉殿は、人差し指を振り楽しそうに
「さて――」と言った。
「以上の二人と比較すると小森中尉の動機は極めて強い、第一に彼は苦学をして市の推薦を受けて幼年学校に入学した。つまり、退役後の生活には困っていた。
そして退役後の当てもなく周囲へ相談をしていた。
この二つを併せると二人よりも動機が強かったことが分かる――そして当然だが記者対策をしていたのだからほかの二人と比べても記者と接触する機会が多い」
「この辺りは分かりやすかったでしょうな」
「あぁ、この通り小森中尉は極めて強い動機と多くの機会を持っていた事で三名の容疑者の中でも重視する必要があった。そしてそれだけではなく、騒ぎになってからの動向にも説明をつける事ができた。
――君は平川が監察課を訪れたのが切欠だったと言ったがそれだけじゃない。むしろ小森中尉の実績作りの為だったという方が大きい筈だ。警察への斡旋と言う餌は報道屋共にも有効だからな」
「あぁ!そういう見方もできたわけだ!」
岡田少尉がぴしゃり、と膝を打つとのを嬉しそうに馬堂はうなずいた。
「そう、だから内々で済ませる為に文書課長が推薦を餌に出した時には小森中尉は喜んだろうな。一番厄介な連中を黙らせる餌になるのだから。それこそ、光帯を腰に巻いて産まれたと言われても信じたろう。何しろ警察に移った後も彼は似たような方法で小銭稼ぎ――或いは、先の話ぶりだとこっちらもあったようだが脅迫に応える事もできただろう。
斡旋を確実にするまでは記者側も黙る。今度は警察で確実な伝手を得られるからな」
「成程、双方ともに利益があったわけですな」
「あぁ、単純だが必死の謀略だったのだろう。
今まで得ていた安泰を守るための、野心のかけらもない」
「そして後に残るものは何もなかった――」
岡田少尉の呟きに、敢えて答えず豊久はため息をついた。
「それにしても首席監察官殿のやり口には驚いたよ」
「あぁ、あの特別監察ですね。まったく、やってるこちらも肝を冷やしましたよ」
「同感だな。俺もばれやしないか冷や汗ものだった。
“単純な相手には単純な方法が効くものだ”というのは良いけど――なぁ?」
早急に対応が必要な事態を作り出し、記者の下に動いた相手を確保する。
分かりやすい事は分かりやすいが――
「事前に記者が勘付いていたら俺が火消しに回る羽目になっていたからな。
出待ちならまだしも、下手したら記者相手の即興の会見を開く羽目にあっていたと思うとぞっとするよ」
記者室のすぐ近くにある玄関ホールで彼は待機していたのである。
将校がたむろしている場だからこそできた芸当であった。
岡田は声を出さずに笑い、体を伸ばしながら欠伸をした。
「そうならないで幸いでしたな。――ようやく、これで一仕事終えられ
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