六月 野心なき謀略(四)
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察課長瀬門前分室 分室長 馬堂豊久大尉
分室の解散式は大路分隊長と堂賀首席監察官が大量の料理を店屋から持ってこさせており、不相応に豪勢な者であった。分室員達はそれぞれ苦労をねぎらい、酒がない事をぐちりながらも――未だ勤務中なので仕方ない事であるが――上機嫌に健啖さをそれぞれ示していた。
二人の将校は部屋の隅でのんびりと料理をつついている。
「こうして全てが分かると単純極まりない案件だったな。
探るのが面倒すぎただけだ」
馬堂大尉はぼんやりと宙を見つめながら云った。精神的な重圧から解放された所為か、気が抜けているのが良く分かる。
小半刻もせずに憲兵達は広報室から立ち退き、騒ぎは拡散する前に収束した。記者達も軍上層部から直々に圧力を受けた本社によって箝口令が敷かれ、広報室と記者室の並んだ二つの部屋はくしくも夏季に互いに人務が一新され、新たな住人を迎える事になるだろう。
小森中尉は最低、二年間は地方勤務に回されてから辞任する事になった。記録には残るが公表されずに済む事になるだろう、と堂賀首席監察官は言った。
また、斡旋を餌に不正を行っていた記者達も同様であった、少なくとも中央官庁では働けないだろうが、それ以上は軍が感知する事でもない。そうした取り決めである。
「そうですね。まぁ大半はそのようなものです。
あぁそう言えば気になっていたのですが、分室長殿は何時から気づいていました?」
「ん?あぁ最後に決定的なところを見るまで確信は持てなかったな。
だが、利害関係を追えば概ね小森中尉が疑わしかったのは分かっていた。
まず、津島大尉は利害関係を持っていない。もし仮に資産状況に問題があるのならば、互助基金にもっと融資を受ける筈がない。
桜契社の互助基金は、将家の給金も預かっているから基金の運用は極めて慎重だ。その上、桜契社は退役将校を管轄しているから陸軍局とも深く結びついている。将校相手なら、そこらの両替商以上の信用調査力を持っているよ」
「それは当然ですね」
「あぁ、だから動機の面では金銭に対する執着が薄く。その上、そこらの貴族将校よりも矜持が高い――悪く言えば権威主義的だ。昇進や、軍中枢に配属される為ならまだしも、自身の部署にまで危険が及ぶ情報漏洩など埒の外だ。真っ先に除外される」
「成程、そちらにまでは考えが及びませんでした」
だんだん声に張りが戻っていくのをに気づいた岡田は面白そうに話に耳を傾けている。
「――そして平川だが、これも似たようなものだ。まぁ俺の私情込みで見ていたのもあるだろうが、同様に金銭面での問題はない。
また、退役後の問題も宛は既に持っている以上ないと言っていい。
強いて言えば津島大尉との確執がある程度だが、動機はきわめて貧弱だ」
興が乗ったのか、馬堂豊
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