六月 野心なき謀略(四)
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がら云った。
「あくまで消去法ですが見えてきた気がしますね。ただ確証がないのが気に入りません」
岡田少尉はどう見る?」
と馬堂は片腕として働いてくれている男に視線を飛ばす。
「私ですか?えぇ、そうですね。確かに全貌をほぼ見えていますが、あくまで確率が高いものを結んだだけで、決定的な確証がないとしかいいようがないかと」
他の分室員達もそれらの意見に頷いている。
それを眺めていた悪巧みの達人である壮年の大佐は愉しそうに笑みを浮かべて言った。
「――成程、ここで意見が一致したというのも面白い。ならば一つ博打を打ってみてはどうかな?」
六月二十三日 午前第九刻 兵部省陸軍局文書課広報室
広報室主任 平川利一中尉
登庁した広報室の者達は文字通り凍りついたように立ち竦むことになった。
「悪いな、特別監察だ。全員この執務室から出ないでくれ」
堂賀静成首席監察官が入るやいなや、開口一番にこの言葉を発したからである。
ましてや、彼が合図するのと同時に戎衣を纏った憲兵達が次々と資料や私物を持ち出し始めたのだから当然である。
「どうなっているんだ!貴様が対応を行うと言ったのだろうが!」
室長を務めている中佐が顔を真っ赤にして平川を怒鳴りつけている。
「そう申されましても、権限は監察課の方が上位です。閲覧権限に関しましても人務部から圧力がかかっているようでして、兵務部長閣下から許可が下りています。自分からとめる事はできません」
「そんなことは分かっている!書類を持ち出すのはいい!人務部から我々の考課表を持ち出して嗅ぎ回るのも!だが何故あの若造は憲兵なぞをこの広報室に!庁舎に入れているんだ!」
「・・・・・・」
平川も口を引き結び、黙して立っている。
その背後では特別監察が続いている。課員の将校達が広報室員達が指示を飛ばし、憲兵達が動き回っている。
――ありえない。
それが平川の――否、全ての広報室員達の脳裏を過ぎった言葉であろう。
無論、分室の面々を見れば分かる通り、陸軍局長の許可が下りれば監察課員は憲兵に対する指揮権を得ることが出来る。機密漏洩の調査と言う名分もある。
だが、それでも陸軍の中枢を自負する陸軍局庁舎に士官ですらない憲兵達が我が物顔で入り込むという事は有り得ない事であった。その為の監察課だったのだから。
そう故にこそ、それはある意味広報室そのものを打ち据えた決定打であった。
孤立――瓦解――そうした言葉が遂に現実のものとなって広報室を襲いかかったのである。
――焦ったか、馬堂。
平川の脳裏にそんな言葉がよぎった。もはや広報室は組織として崩壊しつつある。外部からの疑いと機能不全のレッテルを貼りつけた監察課と憲兵の直接捜査は、広報室の
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