六月 野心なき謀略(三)
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るのだろう。
――彼らは優秀だ。的確に行動の確認を行い、容疑の絞り出しを行っている。
だが、現在問題になっているのは、特権階級である将校という壁、軍中枢という壁の向こう側の話であり、だからこそ監察課が出張っているのだ。
「失礼します。分室長殿」
「どうぞ。何か分かったのか?」
私服姿の壮年の男が部屋に入ってきた。高等掛の古参である佃曹長である。長年私服憲兵を務めており、ほとんど戎衣に袖を通したことがないと嘯いている。
「はい、古い知人に分室長殿が持ってきてくださったネタをぶつけてみたところ二・三面白いことが分かりましてな」
「――聞かせて貰おうか?」
「先ずひとつ。平川主任が退役を考えているのは知っていますな?」
「あぁ、それは私も一応、同期だからね。聞いているよ」
「――で、その原因の一つじゃないかと言われているのが津島係長殿との確執だそうです」
「あぁ……うん、ありそうな話だが裏はとれているのか?」
「記録上は残っちゃいませんが、連絡の行き違いだかで大揉めしたそうです。
証言は、知り合いの下級課員数名からとれました」
「津島大尉は衆民将校の中じゃ顔が利くからな。平川でも辛いだろうな」
今でこそ如何にも選良的であるが、津島大尉も叩き上げの尉官であり、平川の直接ではないにしろ上官である。彼に厭われるという事は恐らくは長期にわたり彼の職場環境に負の影響を齎しかねない。
「二つ目に小森中尉の事ですが。調査の件は課長命令だったそうです。少なくとも文書課に呼び出されていたのは先ほど言った課員から証言をとる事に成功しました」
「流石だな。明日、私が裏をとれば良いわけか」
「はい、分室長殿。そしてそれに関した事でもう一つ。
えぇとどこに書いたっけな」と帳面を捲りだす。
「焦らさないでくれよ」
「これは失敬。――あぁ、これですな。
小森中尉はこの案件に携わった事で文書課長からの皇都視警院への推薦を受けられると示唆されてますな」
予想外の情報に豊久は眉を顰めた。
「――裏はとれているのだな?」
「視警院に居る知人に尋ねたところ、確かに陸軍局から空きがないか打診されているそうです。それ以上調べるのならば、分室長殿にお任せした方が良いかと思いまして」
「十分だ、わざわざ遅くに済まないな。――明日は監察課に行きだな、こりゃ」
上官の顔を思い出し、豊久は生姜を冷やし飴にぶちこむと一気に呷った。
六月二十一日 午前第七刻 馬堂家上屋敷
馬堂家嫡男 馬堂豊久
手早く朝食を済ませて早くも戎衣に着替えた豊久へ、現役将校である豊久以上に太い腕を組みながら馬堂家当主である馬堂豊長が尋ねた。
「忙しそうだな、豊久」
「一応は分室長ですからね。期待
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