六月 野心なき謀略(三)
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の間、退役せずに軍中枢に居るというのは、それこそ彼だけではないだろうか。
「私は個人的に父の商会が経営している店の一つであるその読本屋に出資していた。
まぁ付き合い半分で退役後の備え半分といったところでな」
「そして火災が起きた、と」
帳面に鉄筆と踊らせながら豊久が合いの手を入れる。
「あぁ、一応は出資者だし、後々世話になるからかな。低利率で将校に貸し出してくれる桜契社の基金から必要分を借り受けて追加で出資した。返済も蓄えの一部を頭金にした上に、給金から毎月返済を行っている。貸した金も後々、利子つきで返って来る。何も問題ないだろう?」
津島は静かな口調と裏腹に怒りを込めて睨みつける。
「ありがとうございます。この監察ももうじき終わるでしょう。
この件はくれぐれもご内密に――」
豊久は敬礼ではなく深々とお辞儀をし、退室した。
同日 午後第一刻 皇都 桜契社本部 事務局 主計課
監察課 監察指導主査 馬堂豊久大尉
「御連絡いただいた通り、御三方の記録は全てこちらに取り纏めておりますです。先日のご連絡いただいてから慌てて任官時から遡及して取り纏めましたので、一部不備があるかもしれません。申し訳ありませんが、その場合は改めて御連絡いただければ直接、監察課の方へお届けしますが」
資料を差し出した事務員に豊久はかるく頭を下げる。
「御協力に感謝いたします。――あぁ、その場合はこちらから受けて取りに行くよ。
此処で昼食をとれるという魅力的な特典つきだからね」
事務員は僅かに視線を彷徨わせ、深呼吸すると口を開いた。
「――あぁ、そうだ。もう一つだけ気になることがありましてね」
「なんでしょうか?」
「今回の事とは関係ないのでしょうが――桜契社の龍州支部で大口の借り出しがありました。貸し出した相手のことまでは分かりませんが、つい先日。軍の上層部――五将家のそれぞれの大物から桜契社に寄付が行われた額とほぼ同じです」
「・・・・・・興味深いですね、ありがとうございます」
帳面にそれを記すと豊久は資料を鞄にしまい込む。
「――さてと、これで後は分室の面々次第だな」
六月二十日 午後第六刻半 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎内監察課分室
監察課 長瀬門前分隊 分室長 馬堂豊久大尉
日は既に沈み、洋灯の揺れる灯りだけが唯一つの光源となっている。
豊久は分室長の執務席に座り、今日までに集まった資料と証言を記した帳面を検めながらわざわざ屋台に立ち寄り、こっそりと持ち込んだ冷やし飴に口をつけた。
「・・・・・・後もう少しで何か掴めそうだな」
岡田少尉達、分室員は既に解散している。
だが、恐らくそれぞれ、自分の抱える伝手に接触し、自主的に残業してい
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