六月 野心なき謀略(三)
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?監察課主査の馬堂です」
そこに居たのは省内でも珍しい、如何にも人好きのしそうな顔つきの男であった。
「やはり主査殿でしたか。御目にかかれて光栄です」
もっとも、その顔には珍しく――監察課員を前にしたのなら当然だろうが――緊張の色が濃く出ていた。
「こちらこそ――私の事をご存知でしたか」
「えぇ、流石にただの事務だけで監察課の御方がこうして渦中の部署に出入りするとは誰も信じていませんからな。それなりに噂にはなっています」
といってにやり、と小森主任は笑みを浮かべた。
――名分は立てていたが、平川の言うとおり広報室も切羽詰っているという事か。
内心舌打ちをしながらも豊久は意識して笑みを浮かべ続ける。
「おや?それほど重要な問題ですかね?」
「――そういう惚けは必要ないでしょう。我々だって危機感を抱いているのですから。
私だって何度も探りを入れましたが、連中、億尾にも出さない」
「・・・・・・」
不安を紛らわすためか、鬱屈が溜まっていたのか、小森中尉は饒舌に語り始めている。
――ここは聞き役に徹していた方が良いか?
適度に相槌を打ちながら豊久は応接椅子に座りなおした。
「――何と言っても連中は恐ろしいほどに貪欲でしてな。かまかけまでしてくる癖に此方が何かしら聞き出そうとしてもネタ元を決して口にはせんのですよ」
「御一人で、となるとどうしても行き詰ってしまうでしょうな」
「えぇ、まったくもってその通りです。室長などは私が流していると決め込んでいるようでしてな。
こっちが流出元を突き出すか、さもなくば私が放逐されるかといったところでして」
――独自で動いていた?こちらは調べがついていない――というよりも記者との接触と言う形でしか高等掛の記録されてないのか?
豊久は無意識に身を乗り出していた。
「それで記者たちは何と?」
「教えられない、の一点張りでしたな
――あぁ若手の奴が一人だけ漏らしたのですが」
「・・・・・・」
――真実か、誘導か。どちらにせよ情報はあった方が良い。
「どちらの為にもなるから此処までできたのだ、と」
「その発言の意図は――?」
「さぁ?私には解りませんでしたな。
その漏洩元と企業の間で何かしらの相互利益があるのでしょう」
「――成程、参考になりました。ありがとうございます」
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同日 午前第十刻 兵部省陸軍局文書課 応接室
監察課主査 馬堂豊久大尉
「――確かに、ここ最近の広報室における状況は迅速に解決する必要があると言っても過言ではない段階にある、と我々も考えています」
四十手前の津島大尉は如何にも選良然とした様子で鉄筆を弄びながら豊久に言った。
彼の胸には東州から幾度か実
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