六月 野心なき謀略(三)
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です」
とまるで子供をたしなめるような口調で岡田少尉は云った。
同年代であっても経験の差は如何ともしがたいものであると痛感している豊久は肩を竦めて答えた。
「あぁ、肝に銘じておくよ――個人的にも時期が悪いというかなんというか」
「ほう、何かあるのですか?」
「個人的な事だよ。ただ神経を使う問題を並行して熟さなくてはならないのは中々な」
神経を休めねば、というかのように豊久は細巻に火を着けた。
「興味はありますが聞かんことにしますよ。まぁどの道、最善を尽くしかありませんからな。勇み足だけは止めて下さいよ」
と言って岡田少尉は肩を竦めた。
「まったくその通りだな。焦るのも馬鹿らしいのだろうが――」
「まぁそこらへんはこの手の事を長くやっていれば塩梅も分かるもんです」
と先達者が笑って云う。
「要経験、か。耳が痛いな」
と分室長は力なく笑い、煙で絵をかくかのように細巻を揺らした。
同日 午前第十刻 兵部省陸軍局文書課 広報室 応接場
監察課主査 馬堂豊久大尉
監察が始まっても広報室に出入りするのは分室長である馬堂豊久だけであった。
それも堂々とした監察の為と公言する事はなく、表彰関係などの広報の打ち合わせの為、
という名分を立てていた。
「なぁ、この監察はいつまで続く?」
広報室主任である平川がせっつくと豊久は眉を顰めて答える
「ん――まぁもうじき終わるさ。これまで漏洩したら危険だからな。あくまで秘匿に気を使わなければならないから時間はかかっているが着実に進捗しているさ」
「それならいいが。急いでくれよ。局内の予算割振りの協議がはじまる。
それまでに膿を出しておかないと色々と不味い。総入れ替えならまだしも人員削減で係に降格されるかもしれない」
「あぁ分かっているさ――こっちだってお前たちに気を使っているから時間をかけているのだ。だからそこを考えてから言ってくれ」
苛立ちを露わにして豊久は平川を睨みつける。
「――すまない。だが上も焦っている。前も言ったが俺達も協力は惜しまない。
何でも言ってくれ」
「あぁそれは分かっている。すまないな――じゃあよろしく頼むよ」
と言って立ち去っていった平川の顔には隠し切れない憂慮と焦燥が滲み出ていた。
「――やらかしたなぁ」
重い溜息をつき、豊久は新たに渡された書類に目を通すが意識はそこには注がれず、自己嫌悪だけが脳裏に渦巻いていた。
――あぁ畜生、何をやっているんだ俺は!退役する同期の花道を掃除してやると意気込んでいた癖に行き詰ったら当り散らすなんて馬鹿な餓鬼みたいな真似をしやがって!
「おや、監察課の御方ですね?どうしました、一体」
と声がかかり、豊久は振り向く。
「――小森主任ですね
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