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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
六月 野心なき謀略(三)
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ていた。



六月十九日 午前第七刻半 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎内監察課分室
監察課 長瀬門前分隊 分室長 馬堂豊久大尉


「そろそろ締めといきたいところなんだがなぁ」
五日目となると分室長席と執務室に豊久も馴染みはじめていた。
そして同じく馴染みの顔である分室次席の岡田少尉と行う会議前の方針相談も雑談混じりの打ち解けた物になりつつあった。
「背景調査は着実に進んでいます。そう焦る事もないかと」
 岡田少尉は新聞をばさばさと捲りながら答える。報道関係の監察であるので豊久も咎める事はない。
とはいっても流石に監察課の者が出入りするようになると、機敏というべきか発表前に記事が出回る事もなくなっている。

「今のところシロばかりだからな。どうしても焦ってしまうよ」
 無論、言い換えれば徹底的な洗い直しが進んでいるという事ではある。
だが、情報が漏れていたのは事実であるし、報道者たちに漏れる前に処理をせねばならない以上、監察課の権威をもって堂々と容疑者を締め上げる、というわけにもいかない。
 だからこそ高等掛による秘匿調査と人務部に保存された書類の精査による行動背景の把握と平川中尉を主軸とした協力者からの情報提供に限られている状況であった。
「と言っても残るのは三名です。焦る事はないですよ」

「あぁ何とも言えん内容だがな」
といって豊久は対象者の情報概要を記した帳面――豊久が自分用にまとめたものである――に視線を落とす、

一人目は津島宏大尉――文書課の渉外担当係長である。
他の部署から広報室に送られる素案も管轄しているだけではなく、記者たちの恒例の周り先となっている。
高等掛の調査によれば本人の生活は質素だが父親の経営している店の一つである読本屋が昨年、火災にあった際に桜契社の互助基金から金を借り出して父の損金を立て替えている。
長期の返済ではあるが今のところ滞納は一度もない。

二人目は小森久義中尉――三十を越したばかりの広報室主任であり、平川の同僚である。 
彼はもっぱら記者対策を担っており、鷹揚な振る舞いと気前の良さが知られている。
苦学の末に市の後援を受けて幼年学校に入校している。退役後の相談を周囲にしていたとの情報がある。
――とはいえ、記者に親しむ仕事だからこそ、その手の事には気を配っていると平川からは釘を刺されている。

――そして、三人目が平川利一中尉だ。
小森中尉と同じく広報室の主任であり、広報や報道対策の企画運営に携わっている。
動機の面では不明瞭であり根拠が薄弱ではあるのだが、退役を考えている事と記者との接触が多い事からリストに残っている。

「知人がこれに残っているのを見るとどうもな――」

「そのうち慣れますよ。焦って足元を掬われるよりはマシ
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