六月 野心なき謀略(三)
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皇紀五百六十四年 六月十六日 午前第八刻
皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎内監察課分室
監察課 長瀬門前分室 分室長 馬堂豊久大尉
「成程、だいぶ見えてきましたね。やはり課内に協力者がいるのは強みですな」
岡田少尉と二人で分室の中で作り上げた行動表を眺めていた豊久も頷いた。
「あぁ、やはり文書課に居るのだろうな。記者連中も聞き込みくらいならばいいが、やり過ぎだ」
「発表直前に記事を書く、というのなら許容範囲なんですがね。流石に発表前に記事を抜くのは宜しくない。特に対外政策関係は笑い事じゃ済まない事もありますからね」
「まったくだ。軍縮が進んでいるからこそ、大陸の状況に気を配らないといけないのだからな。
――うん、記者の行動も高い精度で把握されているのは流石だな。高等掛は、良い仕事をしてくれている」
「ありがとうございます。問題は流出したのがかなり遅い段階であるという事ですな」
「あぁ、情報がいきわたった直後に上が流した可能性もある。
最悪、もっと上の連中を洗う必要が出てくるかもしれない」
「面倒ですな」
「あぁ、面倒だ。上に行けばいくほど自前で防諜の備えをやるからなというかやってるからな」
となぜか胸を張って言う分室長に岡田は苦笑いしながら答える。
「えぇどこも気合が入っていますな。
あぁそう考えるのならば魔導院の外部協力者がいるのかもしれませんね。
魔導院からの小遣いだけでは満足できなかったやつが、魔導院のやり口を猿真似して金を稼ぎ出したのかも」
「それはどうかな?そこまでやるのはよほど金遣いが荒いやつだろう?
人務部から文書内の将校連中の書類を閲覧して調べたがそこまで問題がある奴はいなかった。その辺りは五将家も人務部も気を配っている。なにかやらかしたら自分たちが叩かれるからな」
「背州公が退役して以降はとりわけ、ですね」
今から六年前、皇紀五百五十八年に、背州公爵・宮野木和麿が背州鎮台司令長官の座だけではなく、陸軍大将の座からも下ろされ。退役将校として名実ともに軍から放逐された。
これは、五将家の安泰を特に信じ切っていた一部の貴族将校達に大きな衝撃を与え、また同時に、軍閥の寄合であった<皇国>政権と陸軍の官僚組織化が進んでいる事を内外に示すことになった。
鎮台司令長官は中央へ有望な者の推薦権を持っており、当然であるが五将家当主のそれは絶大な権威を持っている。それを乱用した宮野木和麿は兵部省の幾つかの部局の実験を自身の閨閥で握ろうとし、そしてそれは腐敗を齎した。
利益の一極集中と軍への衆民の不信感が高まった事で、駒州公駒城篤胤と今は亡き東州公安東義貞、そして西州公西原信英の代理として西原信置が手を組み、宮野木和麿を軍から放逐したのである。
「あぁ
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