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銀河英雄伝説〜悪夢編
第四十話 抜いた以上容赦はしない
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リーもホッとしたような表情をしている。

「それでも陛下を放さない場合は? 或いは自暴自棄になった場合……」
「フェルナー大佐、私は警告と言いました。警告は一度だけです、二度は無い。望み通り大逆罪を犯させてやってください、エルウィン・ヨーゼフ二世陛下の代わりは居ます」

周囲が息を飲んだ、フェルナーが俺を見ている。俺は本気だよ、フェルナー。だから目は逸らさない。剣を抜いた以上血を見る事無しに鞘に納める気はない、ここまで来て中途半端な事は出来ないんだ、満足したか?
「……分かりました、愚か者が大逆罪を犯さないように注意いたします。しかし万一の場合、後継はどなたに?」
チラとアンスバッハ、シュトライトに視線を向けた。言外にエリザベート、サビーネは駄目だと言っている。旧主だからな、酷い事はしたくないか……。安心しろ、俺も約束は守る。人間、信用が第一だ。

「先々帝オトフリート五世陛下の第三皇女の孫にあたる方がいらっしゃいます。父親はペクニッツ子爵、その方に皇位を継いでもらいましょう」
フェルナーがちょっと驚いたような表情を見せた。俺がそこまで調べているとは思わなかったらしい。安心しろ、原作知識も有るがちゃんと確認もしている。その人物は間違いなく存在する。

「お名前は?」
「まだ決まっていません」
「決まっていない?」
フェルナーが眉を上げた。
「その方は未だペクニッツ子爵夫人のお腹の中に居ます」
艦橋の彼方此方でざわめきが起きた。

「しかし、未だ生まれていないのでは……」
「問題は有りません、総参謀長」
「しかし」
そんな不安そうな表情をするな、メックリンガー。安心させるために笑いかけた。
「既に前例は有るのです」
俺の言葉に皆が訝しげな表情を見せた。そんな例は無い、そう思っているはずだ。

「ゴールデンバウム王朝ではありませんけどね。かつて地球上の或る帝国で誕生前に皇帝位に就かれた例が有ります」
「それは?」
「ササン朝ペルシアのシャープール二世陛下です。名君と言って良いだけの業績を上げました。戴冠式は妊娠中の母親の腹に王冠を置く事で解決したそうです。問題は有りません」
「はあ」
ラインハルトは生後八カ月の幼児を帝位に即けたが俺は生まれる前だ、勝ったな。……いかん、未だエルウィン・ヨーゼフ二世は死んでなかった。

アンスバッハとシュトライトが不安そうな表情をしていた。多分ブラウンシュバイク公爵夫人達の事を思ったのだろう。手当をしておくか。
「アンスバッハ准将、シュトライト准将」
「はっ」
「あの方達を利用する事はしません、私は約束を守ります」
「はっ、有難うございます」
二人が安堵したような表情を見せた、これで良し。

「フェルナー大佐、他に確認事項は」
「いえ、有りません」

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