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「お前は、上手く生きてるようで生きていねえな」
本来なら部屋で飲むはずだったが、厄介な坊主に見つかってしまった。
ゆえにこうやって二階にある、半ば奴専用となっている席でグラスを傾けている。
「ほう……無達よ、その心は?」
「お前さんは大抵のことを人並み以上にこなせて、人の感情の機微にも聡い。ほれ、一見いいとこだらけだ」
無達は――――まあ、何がしかの事情を抱えているのだろう。
口から吐かれる言葉は時折、自戒めいたものがあったりする。
さて、今回はどうなのか?
「実際のところこの街のアウトロー共の総元締め、本職の連中にも覚えがいい」
「総元締めって……意図してやってるわけじゃないんだがな」
結果的にそうなって、そしてそうする方が便利だから続けているだけだ。
「意図がどうだろうと関係ねえよ。ちっと鼻が利く奴は、お前の不興を買うより手を結ぶ、傘下に入ることを考えるだろうよ」
「どうかな? 所詮は十七の糞餓鬼だ。そこまで大それたもんじゃないさ」
「歳が関係あるのはな、凡人だけよ。隔絶した人間にとっちゃ屁でもねえ障害だ。路傍の小石と何ら変わりゃしねえ」
葉巻の煙が立ち上っては消えてゆく。
肺に入れられないようなのが、そんなに美味いのかねえ。
「さて、そんな完全無欠に限りなく近い前途多望な若人。成功は約束されているように見えらぁね」
「買い被りだよ糞坊主」
「まあ聞けや。そんなお前だよ、だがな……どうにも難しく考え過ぎるきらいがあるようだ」
「あん?」
「何を悩んでんのか知らねえし聞く気もねえがよ。お前はそれに足を引っ張られ過ぎてんだよ」
…………コイツ、伊達に歳は食ってないってわけか?
ああ、自覚はしているさ。
既知の打破に総てを投げ打っているせいで、色々損してるってな。
だがそれは世間一般の価値観であり、俺の価値観ではない。
大事なのは満足、自己満足出来りゃ十分なのだ。
俺はそれを求めるがゆえに既知の打破を望む。
「更に性質の悪いことにお前はそれを自覚してる。その上で自分の価値観に沿っている現状を変える気がないとも」
心を読む妖怪が居たな。
ああ、そうそうサトリって妖怪だ。
無達は妖怪も真っ青なほどに俺の内心を覗いて来る。
生まれ持った徳と言うやつなのか、中々どうして――――真っ当な坊主じゃないか。
「同時に、世間一般の幸福が羨ましいと思わないでもない。恥じるこたねえ、人間ってのはそう言うもんだ」
「……爺の説教は長くていけねえや」
否定はしないさ。
もし、既知なんて呪に縛られてなければ――――まったく思わなかったわけでもない。
そうなれば今の自分はどうしていただろう?
幼馴染の風花と共に月学へ通っ
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