第十章 イーヴァルディの勇者
第一話 少女の名前
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エッタの脳裏に、宰相の険しい顔が蘇る。以前から宰相はガリアの動向に酷く警戒していた。周囲から無能王と呼ばれるあのジョゼフを、アンリエッタが信頼する宰相は誰よりも警戒していたのだ。以前何故そこまで警戒するのか聞いてみたことがある。確かあの時宰相は『分からないからです』と答えていた。『無能』と呼ばれながら、更に貴族の大半から嫌われているにも関わらず、あの男―――ジョゼフは今も、あの国の王のまま。その理由が分からないからだとマザリーニは言った。
わからないから怖いのだと……。
あの男がアルビオンの分割の際、港一つだけ手に入れた時、アンリエッタは無能と呼ばれるのは真実であったのだなとしか思わなかった。しかし、今思えばあの男にとって、そんなことは瑣末なことだったのだろう。トリステインと違いガリアは大国である。元々アルビオンなど必要としない。あの何も考えていないような笑みの下で、あの男はルイズの『虚無』を狙う算段を考えていたのだと今思い、背筋が粟立つのをアンリエッタは感じた。
『何を考えているか分からないから怖い』……その言葉の意味を、アンリエッタは身を持って感じた。
「っ、で、でも、本当にガリアが関係しているかなんてまだ分からないじゃないっ。ほ、ほら、ミョズニルトンがガリア王家を脅すか何かして、タバサに命令させたなんてことも考えらえるし、そ、そうだっ! 直接本人に聞けばいいじゃないっ。何よ、そんな簡単なこと忘れていたなんて、ダメね、まだ魔法の効果が切れてないのかし―――」
「タバサはもういない」
重苦しい空気を晴らそうと、ルイズが勢いよく喋り始めたが、それを士郎の一言が止めた。
「どういうことシロウ?」
キュルケの視線が士郎を向く。
「……目が覚めて直ぐにタバサに会いに行ったが、既に部屋はもぬけの殻だった」
「もぬけの殻って……もしかしてさらわれたんじゃ」
「その可能性は低いと思うわ。あの子はそんな間抜けじゃない。多分……だけど姿を隠したんでしょ。迷惑をかける前にってね……全くあの子は何でも一人で背負いすぎなのよ」
ルイズが心配気に呟くと、キュルケは忌々しげに鼻を鳴らすとテーブルに爪を立てた。
「そのうち連絡が来ると思うから、それまで待っているしかないわね」
微かに震える声でそう言ったキュルケは、ティーカップに残っていたお茶を勢いよくあおぐ。
ゴクリとお茶を一口の飲んだキュルケは、乱暴に皿の上にティーカップ置くと深い溜め息を吐いた。
「っはぁ〜……わたしってそんなに頼りないのかしら……少しは力になっていると思っていたんだけど……」
力なく呟くキュルケに、誰も何も言えなかった。誰もが押し黙るそんな中、声を上げたのは、やはりと言うか士郎であった。
「大切だからだろ」
「
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