第十章 イーヴァルディの勇者
第一話 少女の名前
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と思い込んでいる人形の名前が……ね」
……重い、空気が部屋に満ちる。
ルイズは、まるで部屋に満ちる空気が鉛に変わったかのように感じ、思わずテーブルに両手をついてしまう。
「―――『タバサ』って……言うのよ」
組んだ両手から額を離したキュルケは、椅子の背もたれに背中を預け、再び天井を仰ぐ。
「元々その人形はね、あの子の母親が仕事で忙しくて一人ぼっちにしてしまう娘のために、一人で街に下りて手ずから選んでプレゼントした人形らしいわ。そのプレゼントされた人形を、あの子はずっと妹みたいに可愛がっていたそうよ……『タバサ』っていう名前を付けてしまう程に、ね」
「…………」
黙り込み、再び静まり返った部屋の中、キュルケは天井を仰ぐ目を塞ぐように開いた手の甲を当てる。
テーブルを囲む三人には口しか見えない。
静まり返った部屋の中、キュルケは不意に、口元を釣り上げると、喉の奥でくっと、笑い声を上げると小さく呟いた。
「―――皮肉な話……ね。心を狂っても娘を守ろうとする母親……でもその母親が守ろうとするのは、かつて自分が娘が寂しくないようにとプレゼントした人形で……本当の娘は、自分たちを狙う敵だと思い込んでしまう…………」
顔を覆ったまま呟くキュルケ。
「本っ当に……皮肉な話……笑ってしまうほどに……ね」
すっ、と顔を覆うキュルケの手の隙間から涙が一筋頬を伝い―――褐色の頬を伝った涙が、珠となって床に落ちる。
床に落ちた涙の粒は、直ぐに床に染み込み、後には小さな染みが残るだけ。
「……最後に一人残されたあの子が、今も生きているのはね、ガリア王家からの命令に素直に従っているからよ。自分の命を、何より、心を病んでしまった母親のため、あの子は三年もの間、誰もが忌避する達成不可能な仕事や汚れ仕事を受け続けていた。常人なら……とっくに死んでいたでしょうね。だけどあの子は生き残った。殺すつもりで命令した仕事でも、しぶとく生き残った彼女の扱いに困ったんでしょうね……だから反国王派に持ち上げらる前にと―――」
「―――トリステイン魔法学院に留学させた、と」
キュルケの言葉を、アンリエッタが先に口にする。
「……想像でしかありませんが」
アンリエッタの言葉に、小さく頷くキュルケ。
「え、ちょっと待って。じゃあ……タバサがミョズニルトンに従っていたってことは」
「そうね、今回も命令を受けたんでしょ。だからあなたの考えている通り、多分そういうこと」
はっと顔を上げたルイズが焦った声を上げると、キュルケその通りだと小さく頷いてみせる。
「つまり、ルイズを誘拐しようとしたのは……ガリアということですか」
目を閉じたアンリエッタが、深い溜め息を吐く。
アンリ
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