第十章 イーヴァルディの勇者
第一話 少女の名前
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…確か、狩猟の際毒矢を受けて亡くなったと聞きましたが」
キュルケの言葉に、アンリエッタが考え込むように細い顎先に手を当てながら小さな声で答える。
「そう、あの子の父親、オルレアン公シャルルは暗殺された。兄……現国王ジョゼフにね」
「っ、そんな……」
はっと、息を飲んだルイズが顔を俯かせる。
実の兄に暗殺される弟。
貴族の世界ではそう珍しい話ではないが、それでもそんな話を聞くたびにルイズの胸はズキリと痛む。兄弟が家督争いのため互いに殺し合う。幸いと言っていいのかわからないが、ヴァリエール家には姉妹しかいない。そのため、そのような家督争いが起きることはないとは思うが、そんな話を聞くたびに、何時も思ってしまう。
家族なのに何故―――と。
そんなことを思ってしまうのは、自分が女だからなのか―――何時も……思ってしまう。
しんっと静まり返った部屋の中、キュルケの言葉は続く。
「父親だけじゃ……ないの。あの子の母親も殺されはしなかったけど、代わりに……心を狂わされた」
「―――心を狂わされた?」
声を上げたのは、腕を組み目を閉じていた士郎。
閉じていた目を開け、その鷹のような眼光でキュルケを見る。
「……タバサの母親は、タバサが飲むはずだった毒を自分が代わりに飲むことで、あの子の身代わりになったのよ。その飲んだ毒というのが特別なもので、心を狂わす水魔法がかかった毒で、解呪することも出来ないまま、あの子の母親は今も心を病んだまま……」
テーブルに両肘を立て、組んだ両手に額を当てたキュルケは、顔を俯かせたまま震える声で呟く。
「ねぇ、あの子の名前……知ってる」
「……タバサ、でしょ」
顔を俯かせたまま当たり前のことを聞くキュルケ。消えかけの火のような、力のないキュルケの様子に、ルイズは恐る恐ると返事を返す。
「そう……タバサ……だけど、それはあの子の本当の名前じゃないのよ」
「本当の名前じゃないとは、どういうことだ」
視線を逸らさないまま、ずっとキュルケを見たいた士郎が小さく問いかける。
「……さっき、あの子の母親が心を狂わされたって言ったわよね」
「え、ええ」
声を震わせながらルイズが頷く。
「どんな風に狂っていると思う……」
顔を伏せたまま、誰にでもなくキュルケが問う。
「あの子の母親はね、人形を……自分の娘だと思い込んでいるのよ」
「―――っ」
口元を手で覆い息を飲むアンリエッタ。
独白のようなキュルケの言葉は続く。
「……あの子の母親は、心が狂った今も、必死に自分の娘を守ろうとしているわ。だけど、心が狂っているから、胸に抱いた守ろうとする娘が人形だと思いもしない……で、そのあの子の母親が娘だ
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