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銀河英雄伝説〜悪夢編
第三十八話 傍に置くのには理由が有るんだ
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か”とか帰れる事を喜ぶ一言です」
「……」
馬鹿な、そんな事を聞いたら……。

「それが何十人、何百人、延々と続いたとか……」
「……なんて事だ……」
気が付けば声が震えていた。
「ええ、第十一艦隊はパニックになったそうです。攻撃する艦も有れば逃げ出す艦も有る。多分、一つの艦の中でも攻撃を主張する人間と撤退を叫ぶ人間が出たでしょう。とても組織だった戦闘など出来なかった筈です」

溜息が出た。
「それで五割の損害か……」
俺が呟くとヤンが言葉を続けた。
「ビュコック司令長官はクブルスリー本部長と相談の上、第一艦隊に撤退命令を出しました」

撤退は妥当な判断だろう。第一艦隊のカールセン提督は猛将と評価されている人物だがそんな事をしかけて来る敵と戦いたがるとは思えない。
「してやられましたよ、先輩」
「そうだな」
ヤンの表情は苦い、多分俺も同様だろう。エーリッヒ・ヴァレンシュタイン、あの男だ、おそらく今回の一件を高笑いしながら見ているに違いない。

「帝国軍は最初から二段構えだったのでしょう。こちらが捕虜交換を重視すれば帝国領侵攻は無い、しかしそうでない場合には捕虜の声を聞かせる事で混乱させる……」
「なるほど」
溜息が出た。さっきまで楽しんでいたコーヒーももう味わって飲む事は出来ない。ただ苦いだけだ。

「何の益も無い出兵でした。ただ損害だけを受けてきた」
「そうだな」
「問題になりますよ、これは。成果が出たならともかく被害だけを一方的に受けて敗退したんです。これなら捕虜交換が行われる事を信じた方が良かった、そんな声が上がるはずです。実際、帝国が約束を反故にすればそれを非難する事で国内を纏める事も出来たでしょう」
またヤンが紅茶を一口飲んだ。こいつも味わって飲んでいるようには見えない。

「軍も非難を受けるだろうが政府の方が酷いだろうな、出兵を決めたのは政府だ」
「ええ、政争が起きるだろうと司令長官と本部長は思っているようです。どうやら帝国よりも同盟の方が混乱しそうですよ……」
ヤンが溜息を吐いた。俺も溜息を吐いた。どうやら同盟は憂欝な時間が多くなりそうだ。




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