閑話 アレスとの出会い1
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人間がまとまると思う。共和制になれば、誰もが幸せになるのか、違うだろう」
いつしかアレスの言葉からは笑いが消えている。
元々の目つきの悪さも加わって、サハロフを睨むような格好であるが、誰も何も言えなかった。告げられるサハロフですら、黙ってアレスの言葉を聞いている。
「人が集まれば軋轢が生まれるのは当然のことだ。当然、共和制にだって欠点がある。それを無視して、都合のいいように解釈して、他者を批判し、自己を肯定することは主義主張の問題ではない。ただの立派な自己弁護で――何より君らの嫌う帝国主義とどう違う」
アレスの言葉に対して、誰も言葉を出せないでいた。
批判も、肯定も。
声すらあげるという動作すら出来ずに、黙ってしまう。
それは共和制というものを絶対視する彼らに対しては、手ひどい言葉だ。
絶対不可侵の銀河帝国皇帝――それが、絶対不可侵の共和制に置き換わっただけではないか。
その問いかけに対して、まだ十五歳のスーン達では反論する言葉を持たない。
ようやく絞り出すように、声を出せたのはサハロフだ。
腕を組んだままで、口を開く。
「それでは帝国主義と比較して、共和制の欠点とは何だ。君が糞と表現するほどに酷い欠点があるのだろう」
言葉に、アレスは肩をすくめた。
「いろいろあるけれど。一番の理由は責任の所在が不明確であること」
「責任とは何だ?」
「そのままの通りさ。もし、間違った行動を――例えば、軍が敗北した時に市民は誰のせいにする?」
「それは……軍と政治が」
「おかしいだろう。むろん、負けた理由は軍なり政治家にあるのだろうが――それを選んだのは誰だ、市民じゃないのか。だが、その失敗の原因が自分たちであると誰も思わない。普通失敗をしたら、失敗しないでおこうと思うものだ。それに気づかない――失敗が起こったとしても、政治家や軍に責任を転嫁してしまう。まさに衆愚政治という現状は古代ギリシアが帝国主義に変化した原因であるし、近年ではルドルフが誕生した原因であるのだろう。けれど」
叩きつけた音が、再び教室に反響した。
全ての指を追って、そのままの勢いでアレスは机に叩きつけていた。
「何より、その事にすら気づかない現状が一番問題だ。少しは歴史を見ろ。それを言葉で理解するだけではなく、理解しろ。なぜルドルフが誕生したのか――ただ否定するだけで、それが起こった原因を解決どころか、誰も直視すらしていないじゃないか。これを糞と言わずに、何と言う」
アレスの言葉に、教室中が静まり返った。
もはやサハロフですら、声をあげる事はできない。
ただ驚いたように、アレスを見るだけだった。
もはやそれは論戦ではなく、先にスーンが思ったように教師が出来の悪い学生に講義をしているかのようだ
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