閑話 アレスとの出会い1
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の言葉に二言はないな」
「ああ」
「そうか……ならば、明日を楽しみにしておくがいい」
「ん?」
「その言葉を、学生教官がどう判断してくれるか、楽しみだ」
言葉を聞いて、スーンはフォークが見せた笑みの理由を理解した。
学生教官とは、彼ら学生が最初に接する先輩である。
一学年の四月からわずか半年の間であるが、現役の士官が先輩として士官学校の生活を公私ともに面倒を見てくれる。
もちろん、それは決して生易しいものではない。
逆らえば鉄拳が飛び、スーンが怒鳴られた事は数えきれない。
まさしく鬼軍曹として――階級こそは大尉であるが――何も知らない一般市民をそれなりの軍人に変える上司でもあり、先輩でもある。
「そ、それは……!」
幾らなんでも酷いのではないかと口を開けたスーンの言葉を、アレスの声が遮った。
「何だ。何かと思えば、ママに言いつけるのか?」
スーンは初めて人を進んで、殴りたくなった。
「覚悟しておけ!」
上から見下ろすような表情をしていたフォークに、怒りが走った。
しかし、殴りかかることもなく、取り巻き達を引き連れて、部屋を出ていく。
激しく閉じられた扉が、けたたましい音を鳴らした。
これは大変なことになった。
スーンはアレスに近づき、声をかける。
「今のうちに謝っておいた方がいいよ?」
「謝る?」
そこでアレスがゆっくりと唇を持ちあげる。
それまでの睨んでいる目つきとは別の――悪魔の様な優しげな笑みだ。
なぜ笑っているのか。
その笑みの意味に、気づいたのは随分後のことだったけれど。
+ + +
授業が終わり、片づけを進める中で、後方、授業を見守るという名の監視をしていた学生教官がゆっくりと近づいてきた。寝たり、態度の悪い学生がいれば、鉄拳を与えるためだ。
数年前に士官学校を卒業したという大尉は、すでに戦場を経験しており、頬に小さな傷を残している。
鍛えられた体つきは、服の上からでも筋肉が盛り上がっており、短く髪を刈りあげていた。
一見すれば恐ろしく、近くにいてもお近づきにはなりたくないだろう。
そんな学生教官――ニコライ・サハロフが机の押しのけるように近づいて、やがてアレスの席の前で止まる。
「マクワイルド候補生」
「何でしょう、サハロフ学生教官」
なぜそんなに平然としていられるのか。
むしろ隣の席に座るスーンの方が寿命が縮まる思いであった。
そして、口を開いたのはスーンの予想通りの言葉だ。
「君は共和制を卑下して、帝国主義を称賛したらしいな」
「違いますね」
アレスの即答にも、強面の学生教官は表情を変える事がなかった。
ただ一言。
すぐに視線をスーンへと向けた。
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