第四十一話 少年期【24】
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い方がいいだろうか。せめてこいつの正体がわからなければ、迂闊に動けない。本当かはわからないが、ここまで正直に答えてくれるのなら率直に聞いた方が早いかもしれない。俺は意を決して、最も気になっていた質問を口にした。
「お前は、なんだ?」
『ストレートだな。ふむ、己はマスターにてマイスターである者から、1つの役割を遂行するために作られし本。『ヴェルターブーフ』。あらゆる1を収め、集合体としてマスターへと智を提供せしものなり』
……えっと、つまり?
『平たく言ってしまえば、―――辞書だ』
「『辞書かよッ!?』」
******
古代ベルカ時代に作られし本『ヴェルターブーフ』。彼は己の製作者が己のために作った自立型の魔導書であった。彼のマスターはある意味で天才であったが、ある意味で残念な魔導師だったらしい。
曰く、戦闘や技術に関しては飛びぬけていたが、私生活はかなりぬけていた。料理や掃除では爆破させ、対人関係は臆病で、興味があるものにはフラフラと近づくため迷子は当たり前。世界単位で迷子になることもあったが、そこは本能で生きていけるような人物。なんとか切り抜けてきたらしい。
そんなよくフラフラするマスターが困った1つが、言語の壁だった。どんな世界だろうが生存するならやってのけてしまうマスターだが、人の中で生きていくのは難しかった。特に古代ベルカ時代は国によって言語が異なることがある。共通語なんてものはなかったので、よく迷子になったマスターは道を聞くことができなかったのだ。というより、人と話すことすら難しかった。
迷子になる。でも、人に聞くのは大変。そこでマスターは気づいた。そうだ、標識とか地図が読めればいいのだと。それ以来迷子になったら地図を見つけ、標識頼りに進もうと考えた。だが、そこでも言語の壁が立ちはだかる。つまり、読めないのだ。
正直素直に人に頼れる性格だったのなら、言語の壁もジェスチャーや魔法を使って乗り越えられただろう。だがそれができない現状で、どんな場所へ行くのかもわからない方向音痴さ。予習なんてできない。ならば、そんな部分を補佐してくれるものを作るしかない。明らかにそっちの方が大変なはずなのに、マスターは名案だと思って本当に作ってしまったのだった。
「つまりその迷子癖のあったマスターが、どんな国に行っても文字が読めるように作り出した魔導書がお前だったと」
『ふむ、まぁそうなる。自立型にしたのも、もしもの時は己がマスターの代わりに会話をして、道が聞ければさらにラッキーという感じであった』
『ご苦労さまで』
いつの間にか俺たちは円になって、ヴェルターブーフの話を聞いていた。こいつ自身は知識を収拾することしかできない魔導書であるため、主にマスターが迷子に
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