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占術師速水丈太郎  横須賀の海にて
第七章
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。生憎私は空には弱い」
「それだが」
 速水は完全に艦に降りてきた。そして死霊と対峙した形で問う。
「空が嫌いなようだが。何があった」
「さっき言ったな」
「雷か」
「そうだ。私の乗る船は雷により沈められた。嵐の夜にな」
 昔はこうしたこともあった。木製であり避雷針もない船は落雷に対しては対処する術を持ってはいなかった。従ってそれを受けたならば炎に包まれて沈むしかなかったのである。
「それ以来。空を恨んできた」
「空をか」
「だからこそ海に留まっていたかった。忌まわしい雷の支配する空ではなく全てを包み込んでくれる優しい海にな」
 声が温かいものとなってきた。
「もうここには留まってはいられぬが。だがあちらの世界では」
「行くがいい」
 速水は感情を込めずに言った。
「本来はそこへ行く筈だったのだからな」
「本来はか」
 死霊の声はもう消えようとしていた。
「そうか。そうだったな」
「数百年の妄執を捨てて。消えろ」
「消えるとするか。最早話すこともできなくなってきた」
 その言葉通り声はさらに小さくなった。
「それでは。異界の者は消えるとしよう」
 その姿がすうっと消えていった。まるで影の様に。そして霊気も。速水はそれを感じて死霊が完全にあちらの世界に行ってしまったことを感じていた。
「これで終わりだ」
 彼は最後に呟いた。
「数百年の海への思いも。一条の光で消える」
 呟きながら懐から何かを出す。
「終わった。今一つの魂が還った」
 それはタロットのカードだった。死神のカード。全てを無に還す死のカードが全てを現わしていた。こうして速水と死霊の戦いは幕を降ろしたのであった。



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