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占術師速水丈太郎  横須賀の海にて
第五章
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こともない。これはトランプと同じである。
「だが私が投げたカードは二十枚」
「二十枚」
「そう。そして残る二枚のカードは」
 左手をさっと前に出す。
「ここにある。そして・・・・・・」
 右目が横に動いた。
「そこだっ」
 右にカードを投げた。その先に何がいるのかわかったうえで投げていた。
「グハッ」
 声がした。そして死霊がその姿を現わした。彼の胸に皇帝と女帝のカードが突き刺さっていた。
「やはりそこだったか」
「わかっていたのか」
「声と気配でわかった」
 彼は答えた。
「霊感でな」
「そういうことか」
 死霊は相変わらず表情のない、仮面の様な顔でその言葉に応えた。
「侮ったか、またしても」
「さて、ここで決着をつけるか」
「生憎だが今は私は倒せぬぞ」
「どういうことだ」
「あれを見よ」
 彼はこう言って上を指差した。そこには月が出ていた。おぼろな黄色い光を放っている。それは十日月であった。
「月か」
「私は満月の時以外にはあちらの世界に完全に帰ることはできぬぞ。今ここでは決して帰ることはない」
「呪いか」
「そうだ」
 彼は答えた。
「死霊となり生きる者の生気をはじめて吸った時にな。同時に受けてしまったのだ」
 掟を犯せばそれだけで報いがある。彼の呪いはそれであったのだ。
「私を倒したいのなら満月の時に来るがいい」
 彼は言った。
「その時に。また会おう」
 そう言い終えると姿を消した。そして彼はそのまま姿も気配も消し去ってしまったのであった。
「消えたか」
 速水はそれを見届けて一言呟いた。
「とりあえずは満月まで待つか」
 腕を一振りあげるとカードが舞う。そしてその手の中に収まるのであった。
 こうしてこの夜の戦いは終わった。彼は朝になると艦長に対して夜のことを話した。


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