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占術師速水丈太郎  横須賀の海にて
第二章
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「でしょうね」
 男はその言葉に対して頷いた。
「自衛隊の仕事はあくまで物理的なものを対象していますから」
「はい」
 その女性自衛官は彼の言葉に頷いた。なお海上自衛隊では女性自衛官のことをウェーブと呼ぶ。陸上自衛隊ではワック、航空自衛隊ではワッフとなっている。
「こうしたことは話だけは多いのですが」
「そうらしいですね」
「御存知でしたか」
「ええ、まあ」
 男はそれに対して頷いた。見れば鮮やかな青いスーツとネクタイを着ている。そしてその上からその青いスーツと映える丈の長い白いコートを羽織っている。だがそれは裏地は深紅であり何処かマントを思わせる。
 顔も白く何処か日本人離れした色であった。雪か雲の様に白い。
 だが髪は黒くそれで顔の左半分を完全に覆っていた。その黒い二重の少し小さな目でウェーブを見ていた。そしてその薄い唇で話をしていた。整ってはいるが何処か謎めいた男であった。
「昔から自衛隊にはこうした話はつきものですからね」
 男は答えた。
「軍の頃から」
「よく御存知のようですね」
「職業柄ね」
 男はこう答えた。
「こういう仕事をしていると。よく聞くことになります」
「占い師でしたね」
「はい」
 男はここでうっすらと笑った。本人はにこやかに笑ったつもりだったのかも知れないがその笑みは何処か謎を含んだものであった。
「タロットで」
「タロット」
「トランプに似たものです」
 聞き慣れない単語を聞いて目をパチクリさせるウェーブにこう答えた。
「カードを使って占うのですよ」
「そうなのですか」
「今度貴女も占って差し上げましょうか」
「時間があれば」
「占い方も色々でしてね。一枚で占うこともできます」
「一枚で」
「何でしたら今ここで占って差し上げても宜しいですよ」
 彼はコンクリートの波止場を歩きながらこう言った。見れば左右には停泊している船舶が並んでいる。後ろには自衛隊の建物があった。どれもかなり大きい。その大きさと数からここがかなり大きい基地であるとわかる。事実ここは海上自衛隊の基地の中でも最大規模のところの一つである。
「何が宜しいですか」
「何と急に言われましても」
 彼女は少し戸惑った。
「そうですね」
「当然恋占いもできますが」
「恋占い」
 それを聞いたウェーブの表情が少し変わった。
「はい。占いの定番ですから」
「それじゃあ」
 彼女はそれを聞いて占ってもらう気持ちになった。彼に頼んできた。
「今の交際について」
「わかりました。それでは」
 それに頷くとサッと懐から何かを取り出した。彼はまずそれを見た。
「ふむ」
 見ればそれは一枚のカードであった。彼はそれを見て頷いていた。
「それがタロットですね」
「ええ」
 彼は答える。

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