六月 野心なき謀略(二)
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しっかりこなせよ」
豊久は緊張した面持ちで頷いた。
「はい、それでは明日は直接、分隊本部に向かわせていただきます」
六月十五日 午前第八刻半 皇都憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎
兵部省 陸軍局 人務部 監察課 主査 馬堂豊久大尉
「初めまして、分隊長殿。
兵部省陸軍局人務部監察課の馬堂です」
二回り近く年の違う非主流派である中道派に属する弱小将家の出身者である大路少佐に馬堂大尉は敬意を込めて敬礼を奉げた。
馬堂主査は旅団副官時代から三年近く習慣の様につけていた副官飾緒を外している。
「皇州都護憲兵隊長瀬門前分隊長の大路だ。貴官にこの案件を引き継ぐということで問題ないな?」
非主流派といっても憲兵将校にとっては一国一城の主である憲兵分隊長――わかりやすく言えば警察署長である――の筆頭である長瀬門前分隊長を務めている事から分かるように、実際は堂賀静成大佐の腹心ともいえる男である。
だからこそ、まだ経験不足の自分を送り込んだのだろう、と豊久はあたりをつけていた。
「はい、分隊長殿。こちらに監察課分室を設置させていただけると、首席監察官殿から聞いておりますが」
「あぁ、高等係から数名、貴様の指揮下――分室附きにつけることになっている。経費は全て監察課持ちでな」
にたりと笑った大路少佐に若い主査も苦笑して頷いた。とはいっても分隊以下の高等掛は基本的に特設高等憲兵隊の指導下にあり、ある意味では陸軍で最も中央集権化が進んだ組織である。
「ありがとうございます。これからしばらくはお世話になりますが、よろしくお願いします」
「貴様の監察は局内での活動が主になるのだろうが、情報を集約する場所を此処にしたのは正解だろう」と大路は不愉快そうに言った。
「課内はまだ安全だと思うのですがね――万一という事もあるでしょうから」
馬堂主査も生真面目な態度を崩さずに頷いた。
「あぁ、こちらの情報保全は私が責任をもって保障しよう。あぁこんなことを監察課の者に言っては危険極まりないな」
と大路分隊長は気さくそうに笑った。
「えぇそうですね、分隊長殿。自分も分室の長として連帯責任ですから。くれぐれもよろしくお願いします」
と豊久も声を上げて(笑)。
中年の分隊長と若年の監察課主査は視線を交わし、笑みを交わす。
「――念のために言っておくが高等係が分隊内の行動確認を済ませている。
堂賀首席監察官殿もそれを信用しているからここに分室を置く判断を下したのだろう。
これでだ、万が一ここで漏洩が起きたら隊本部と監察課直々に大掃除に出てくるだろう。
私も君も間違いなく冷や飯食いになるだろうな。安心しろとは言わん、私は部下を信頼しているが、記者連中も存外に手が長いようだからな。注意してくれ」
「はい、分隊長殿」
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