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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
六月 野心なき謀略(二)
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担当する事になるとはな。

「憲兵隊の高等係が記者連中を洗っていたのだが、省内にまで食い込んでいる事で、監察課と共同戦線を張る事になった。
すまないが一時的に副官を解任して改めて監察指導主査として任命する。この漏洩問題に対する特別監察を担当してもらう。これは決定事項だ」

「解任――ですか」
 不安の色をその声から聞き取ったのだろう。堂賀は口元の笑みを消し、豊久に真っ直ぐと猛禽の視線を送る
「あくまで一時的な措置だ。今、皇都に居る監察課員で外勤を経験しているのは私と貴様だけだ。私が動いては目立ちすぎる、記者連中を刺激するのは面倒に過ぎるからな。貴様なら漏洩の心配もないだろう」

「その点、私は若輩ですからね。注目もされてませんからね」

「拗ねるな、この馬鹿者」
 初老の首席監察官は丸めた書類で副官の肩を叩き、笑った。
「はい、御信頼にはしかとお応えします」

「取り敢えず元々の下準備は整っている。
下手を打たなければそう時間を置かずに対象者は割れるだろう。だが何かしら此方が立て込むようだったら適当な連中に引き継がせて副官業務に戻ってもらうぞ」

「はい、首席監察官殿」
 豊久はざっと渡された書類に目を通す。――先日、平川中尉から聞いたことがより詳しく書いてある。
「記者連中の方は元々あたっている高等係の方に任せるとしても
文書課は面倒ですね――短期間であたるとなると頭数が欲しいです。課内から何名か附けていただけますか?」
 
「いや、だが都護憲兵隊の長瀬門前憲兵分隊本部に分室を置き、分隊から数名を分室附きとして貴様の指揮下に置かせるつもりだ。人員配置は貴様の自由だから融通を聞かせる事だ。まぁどうしても必要だと思ったら憲兵本部に増援を要請するのも手だ。その前に私に話を通してからだがね。まぁ詳しくは明日、分隊本部に直接向かって聞いてくれ」
 長瀬門前は兵部省などの官庁街が多くあり、さらに陸軍軍監本部や桜契社本部がおかれている、そして長瀬門前分隊は大馬場町も管区に入っている。軍の要人達が行き来する政権中枢を管轄するだけあり、憲兵の警察署といえる分隊本部の中では最大級の規模を誇っている。
 その為、通常は憲兵分隊長には大尉が任じられることが多いが、慣例的に昇任――或いは退役を間近に控えた古参の少佐が分隊長を任じられている。
 だからこそ、本来は余程の事がない限り置かれない“分室”の設置ができるのだろう。
「はい、首席監察官殿。えぇと此方の業務の方はいかがなさいますか?」

「数日の間なら三崎企画官に多少手を貸してもらえば十分に回せる。私も内勤に専念する予定だから問題ないさ。現状だと現場の担当がごっそりと他州に出向いているから何人か戻ってくるまでは仕方ない。今のところは五将家連中の厄介事ではない分マシだろう、
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