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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
六月 野心なき謀略(二)
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しいですか?」

「少なくとも健全だとは思わんよ。教え込んだ私が言うのもなんだがね」
そう云うと豊守は寂しそうに笑った。
「――まぁいいさ。とにかく、そう遠くない内に父上――大殿に同行して弓月家に行くことになる。正式に婚約を交わす前に顔見せだ。
そのあと、駒城の方々に許可を頂けばそれで当面は良い。後は一、二年したら機会を見て正式に結婚だ」
 楽しそうに――ある意味では将家の父親が行う最重要業務が片付くのだから当然だが――豊守が自身の一粒胤の肩を叩く。
豊久は無言で、だらりと汗を流しながら頷いた。
「え、あ、はい」



或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告 六月 野望なき謀略(二)



六月十四日 午前第十一刻 陸軍局庁舎人務部監察課執務室
監察課主査 馬堂豊久大尉


 日常の事務仕事を片付けながら、馬堂大尉は半ば呆けたように父から申しつけられた婚約の事を考えていた。
 ――うぅん、あの時は勢いで頷いたけど、どうしたものかなぁ。御祖父様に父上が組んだ企みだ、向こうに問題ありなんてことはないだろうからまずポシゃらないだろうし……

 本来なら仕事をすべき手を止めて目を覆いながら唸っている若造を見かねたのか、首席監察官の決済を必要とする書類を抱えた三崎企画官が話しかけてきた。
「おい、首席監察官殿はどこだ?」

「……え?あ、はい。首席監察官殿は兵務部の所に課長殿と一緒に打ち合わせに御行になっています。もうまもなくお戻りになるかと」

「あぁ、民友会の件か。どうしたんだ?貴様が上の空なんてのも珍しいじゃないか」
 
「……そうでしょうか?」

「おいおい、重症じゃないか。何かあったのか?」

「あぁ――はい、まぁその、色々と」

「女絡みか?」三崎がニヤリと笑うと豊久は目を逸らしながらもごもごと茶を二号層とする。
「――えぇと、まぁ、似たようなものでしょうかね?」

「あぁ俺も今はこんな腹だが、若いころは皇都で浮名を――」
と厚みのある顎を撫でながらとっくりと思い出に浸りだした三崎により分けた書類の束を押し付けてながら豊久は笑った。
「また今度拝聴させていただきますから、今はこっちをお願いしますよ、企画官殿」

 駄弁りに来たのか仕事に来たのか分からない三崎を追い払った矢先に今度は悪巧みの師にして上官である堂賀大佐が客人を連れて帰ってきた。

「副官、ちょっと来い」
「はい、首席監察官殿」
 堂賀大佐は彼の執務机の前に立った若い副官に二、三枚の報告書を渡し、言った。
「主査としての仕事だ。貴様も同期の友人から聞いているだろう?これをお前に任せたい」
 そこに記されていたのは、つい先日、平川中尉から聞いた件についてであった。
 ――おいおい、まさか俺が
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