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紅い瞳が俺を覗き込む。
心の奥底まで射抜かれているかのような錯覚は、夢と同じ。
怖い――理屈のつかない引力が怖い。
これを考え過ぎだと切って捨てれば良いのに、それが出来ないことが怖い。
「凄い汗……きゅ、救急車呼ぶ?」
携帯を取り出す公子、けれども無駄だ。
どう言うわけだかこの時間帯は電子機器が機能しない。
しかし、それを口にすることが出来ない。
早鐘を打つ鼓動、滴る汗。
俺は今、これ以上ないってほどに追い詰められていた。
「な、何で!? 何で通じないの!?」
「け……い、たいは通じないから良い。それに、大丈夫だ」
陳腐な言い方をすれば今夜は運命の夜だったのかもしれない。
俺と言う人間が有里公子と言う人間に出会うことで何かが始まったのだ。
「えーっと、あーっと……うううう……」
慌てふためいている彼女に構う余裕すらなくなった。
何か大きな渦に飲み込まれていくような――――
「ええい!」
「――――ぁ」
諸々の思考が吹き飛んでいった。
それどころか今、自分がどう言う状態なのかすら把握出来ない。
「い、痛いの痛いの飛んでけ?」
頭が冴え渡っていく。
どうやら俺は彼女の胸に抱かれているようだ。
一体全体どんな思考を辿ってこの結論に辿り着いたのか、俺には見当もつかない。
分かるとしたら一つだけ。
俺らしからぬ状態を脱したと言うことだ。
焦りも不安も一切合財が霧に消えた。
「俺、痛いとか言ってないんだけど?」
ああ、良いさ。
俺が誰で彼女が誰であろうともう関係ない。
これまで俺は徹頭徹尾それだけを目的に生きて来た。
既知の打破、ただそれだけを望む。
そのためならば何だって利用する、それで良いんだ。
深夜零時の不可解な現象も、愛すべき既知の少女も。
等しく既知を抜け出すために利用してやるさ。
「あ……そう言えばそうだ」
ハ! っとした表情で驚く公子。
「割とそうじゃないかって思ってたんだけどさ――――キミ、結構天然だよね」
「ち、違うもん! 私天然じゃないよ!!」
「何とでも言えるけど、少なくとも……こっちは天然だな」
「え――――ひゃん!」
「うん、シリコンとかパッドを使ってない天然ものの胸だ」
未だに抱かれたままだったから、軽く胸を一揉みしてやる。
可もなく不可もなく、小さすぎず、かと言って大きいわけでもない。
美乳と言うやつだろう。
「う、うー……うー……!」
バっと俺から離れて自分の身体を抱きながら睨みつけて来る公子。
ようやく調子が戻って来た。
軽佻浮薄、それぐらいが丁度いいのだ。
「さて、じゃあそろそろ行こうか」
「
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