六月 野心なき謀略(一)
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しながら平川が笑った。
豊久は手持ちの帳面を取り出し、視線を落とす。
「今のところはそう大きな火種はない筈だよ。退役した者達は流石に把握してないがね。こっちが掴んでいるのは精々、旅団内の揉め事や、横流し程度だ。そうだな――後は龍州議員の親戚だかなんだかの果樹園で酔った馬鹿な兵共が暴れた件くらいか?
あれは、州議が直訴状を送ってきたが別段将校がらみでも癒着がらみでもないから憲兵任せで処置報告を確認しただけだった。あれは多分、似たような事例を掻き集めて龍州議会で軍の綱紀が緩んでいるとか、兵の管理体制について問題があるとか州議会でつつくつもりだろうな」
「龍州議会か――うん、ありがたい。こっちの方で鎮台司令部の方と連絡を取っておこう。
こっちも衆民院で取り上げられるだろうからな。これで官房に嫌味を飛ばされずにすむ」
平川が頷いてこちらも帳面に書き付ける。
「今のところはそれくらいなのか?」
「ん、そうだな。他は――首席殿に聞いた方が良いだろうね。あの人はどっかから爆弾を持ってきてもおかしくない」と豊久は真顔で言った。
「確かにあの人は警察関係には顔が広いからな。うん、なんなら今度はウチの室長直々に尋ねた方が良いだろうな。この時期に広報室長が監察課に、なんてさすがに|白地に過ぎるだろうが――」
「心配しなくても危険性が高いのならウチの首席殿ならまず間違いなく伝えるべきところに伝える筈だ。あの方は情報を扱う専門家だからな、この手の危機管理は十二分に知悉しているだろうさ」
「――二カ月で随分と惚れ込んだみたいだな。少しばかり羨ましいよ。
こっちはガタガタだからな、勢力争いの前に部署としての信用すら落ち始めている。
このままだと機能不全に陥ってしまう」と平川は額を掻く。
「取り敢えずこちらの掃除が済むまでは何かあったら俺にすぐ連絡してくれ。
万が一、記者連中に出し抜かれたら局長閣下直々に兵務部をまるごと大掃除されかねないぞ。
五将家の最後の牙城が揺らいだらどうなるか――馬堂殿ならお分かりでしょう?」
と厭味ったらしく衆民将校が貴族将校に問いかける。
「――分かっているよ。俺から首席監察官殿に伝えておくさ。そんな事態にならないことを祈るがね」と豊久が溜息をつくと平川も頷いた。
「同感だな。兎に角、俺も協力するから今回の件は頼んだぞ。内勤だとしても局内の事だ。
貴様もなんかしらの形で関わるだろうからな」
「あぁ、平川中尉殿の最後の花道だからな。そうなったら可能な限り協力するよ」
と豊久は再び寂しそうに笑った。
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