六月 野心なき謀略(一)
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だろうよ――前回は早めに虚偽の報告を受けていたと、鈴鳴屋を叩いたから良かったものの――」と豊久は顔を顰めた。
「危うくこっちまで巻き込まれる所だった。首席監察官殿が視警院に根回ししたお蔭だ」
「だが向こうの瓦版連中は泥沼に嵌るのを見世物にしたかった連中が大半だ。
新聞記者共もここで上手くすれば民本主義政党と結びつくことができると思っている。
民本化運動が進めばそれだけ高級紙である新聞の市場が広がるからな」
「税制を握っている衆民院がその気になれば世論を盾に予算案の修正ができる。昨年度は取っ組み合いの末に妥協して得た分の巡洋艦と駒州の軍馬牧場の改築予算が工部省の熱水機関普及補助費とかいうのに化けたのは知っているだろう?
またあぁやって出し抜かれるのは屈辱の極みだ、と上層部は考えているようだ。
何かしらあってもこちらが把握すれば手の打ちようはある。監察が何か睨んでいる案件はないか?」
平川の探るような視線に豊久は肩を竦めて答える。
「――例えば文書課の漏洩騒ぎとか?」
このところ、連続して新聞に兵部省が発表する前の情報が特報として報道されることが相次いでいる。将家間の駆け引きが何度か台無しにされかけた事もあり、将家の閥に属するものではなく、非主流派の衆民将校だろうと推測されていた。
「あぁ、正直なところそっちもある。俺を含めて衆民出身者は針の筵だよ。
衆民出身の誰かが小遣い稼ぎにネタを売っているのだと幹部連中は考えているし、他の部局もこっちを信用しなくなった。人務部だってこっちに情報を流してくれないんだろ?
この間の受勲関係の騒ぎも殆どそっちの部内で済ませてこっちには事後報告だけだったじゃないか」
重い溜息をついた同期にばつが悪そうに豊久は弁明する。
「あぁ、あのころはまだ目立ってたわけじゃなかったけどな。
慎重に判断するように上から言われていたからだ。どっちにしてもそうしていたよ」
「そう言ってくれると助かるよ。あぁ、それはともかく、何かしらつかんでいる話はないか?どっちにしても衆民院対策はこっちでやらなくてはならないからな」
豊久の視線が鋭くなり、先ほどまでの情を感じさせない淡々とした口調で言葉を発する。
「――漏洩の危険は?」
「俺と被害者――追い落とされそうな立場の連中で探ったルートを使うから大丈夫だ。
それとこれは、貴様もすぐに知る事になるだろうから言うが――近日中に監察課に内偵に入ってもらう。これが要請で俺が今日、監察課に来た理由だ。室長に言われてね」
平川もそれを当然のごとく受けて答える。
「お前が言うのなら――大丈夫なんだろうな。それで漏れたら絶対お前を更迭するぞ」
「おっかないな。監察課の新鋭課員様にいい加減な事はいわないさ」
と笑うに笑えない冗句を飛ば
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