六月 野心なき謀略(一)
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「――広報室の主任か。大変だろうけど良い仕事じゃないか。
かの幼年学校の優等生は見事にばってきをうけたわけだ」
食後の黒茶を啜りながら豊久は同期の平川利一中尉に笑いかけた。
兵務部は編制・徴兵・動員計画・軍律の策定といった陸軍に関する政策、兵部大臣の名で発せられる省令の管理といったを所管している部署であり、巨大で独自性が高い陸軍局の官房としての役割を担っている。
つまり、平川中尉は周囲だけでなく上層部からも高い評価を得たからこそ、抜擢されたのである。
「あぁ、ようやく皇都に戻ってこられたんだ。これを最後の仕事にするのもいいかと思うくらいには満足しているよ」
平川の父は、背州に本店を構える合資商会の大番頭であった。そして接客の才を父から受け継いだのだろう。気位の高い貴族将校や、気難しい衆民の古参将校達とも上手く付き合い、衆民将校の中ではかなり早く二十二歳で中尉へ昇任している。
そして陸軍局の中枢に抜擢されたのだから衆民将校としては最高級の待遇である、豊久の知る限り、余程大物の将家出身者に気に入られなければこのような事はないだろう。
「そうなのか?もう少し頑張って大尉になれば万一のことがあっても多少はマシな配置で戻ってくるだろうに」
「その大尉まで何年かかる?中尉になるまでに六年もかかったんだ、八年?いや、十年かかってもおかしくないだろうさ。
だったらまだ物覚えが良いうちに店に戻るよ。ちょうど手土産の伝手作りにゃ丁度いい仕事だから区切りにするかどうか、って迷っているんだ」
「そうか――まぁ衆民の将校は大抵そうするからな」と寂しそうに豊久は菓子をつまむ。
見習士官ではなく、軍幼年学校に入校して将校となったのは、下士官だけでなく着実に増加している衆民将校とも?がりを造るべきであると彼の父が判断したからだった。
無論、軍人としてのそれだけではなく、彼らの大半がいずれ地方の名士や商会の要職に就く事がを約束された身である事が大きかったのだが。
「――っとそうだ。早めに退役の挨拶に来たわけじゃないだろう?何の用事で来たんだ?」
「あぁ、この間の受勲と両替商摘発の件――」
ぴくり、と豊久は肩を震わせた。
「――で瓦版連中だけじゃなく、新聞記者の連中までもが随分と嗅ぎ回っているようなんだ。兵務部の幹部連も随分とぴりぴりしている、当然といえば当然だよ」
<皇国>では一般的に俗にいう高級紙を新聞と呼び、扇情的なゴシップを質の悪い紙を使って刷っている物を瓦版と呼んでいる。どちらもここ最近は衆民から縁遠い殿様と軍隊を獲物にして部数を稼ごうとしている。
「局長会議を来月に控えているんだ、そちらで水軍に札を与え無い為だろう?確かに受勲を受けた事は話題にはなるだろうが、記者連中の本命はこちらの不祥事
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