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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
六月 野心なき謀略(一)
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剣な目でそれを見る。
「はい、こちらのものは該当の鎮台司令部に回すべきものだと判断したものです。
そしてこちらの方が尉官級の者を派遣すべきと判断したものです。
今のところは監察官が出張るような新規の案件は確認しておりませんから企画官殿の御心配には及ばないでしょう。厄介な内部告発や匿名告発もないので今日は幾らか気が楽ですね」

「ん――」
 堂賀も素早く中身と封筒を重ねてある物――副官が地方軍政機関である鎮台司令部に回すことを提案した物――つまりは不正の摘発よりも地方議会対策に主軸を置くべき問題であると判断したものに目を通す。
「この龍州議員は確か、民友同志会の奴だったな。民本主義の急進派だ」

「はい、今の総裁が例の六芒郭騒動の調停を執り行い第一党に躍進した政党ですね。財政的には軍縮推進派ですから民友会の主流派として秋の総選挙前に龍州議員選挙における勝利が欲しいのではないかと」

「――成程な。あの大成果を得て以来、龍州は民友会の勢力圏だからな、面倒な事だ。鎮台に回すときのそのことを注意するようにしてくれ。
――まったく、あんなのが今の衆民院第一党だとはな」

 さて、納税者である衆民達の代表者である衆民院、および天領に設置された――五将家の領地にも権限が制限されているが似た物が設置されている――州・市の地方議会に対しては陸軍の支配権を維持している五将家もそれぞれ程度の差こそあれども影響力をもっており、また態度に差はあってもその権限に異議を挟むことはなく認めていた。
 なぜならば封建的な財政上の必然によって陸軍内で予算を好きにできる――口さがない貴族将校の一部は貧困にあえぐ自由と自嘲するが――権限をもっているのは五将家のそれぞれが支配する六個鎮台(五将家の本拠地の他に北領は恩賞によって守原家の支配下にある)のみであるからだ。
 例えば皇州都護鎮台・龍州鎮台は執政府の管理する予算で賄われているし、当然ながら兵部省と軍監本部、及びそれらに管理されている関係機関も同様である。
〈皇国〉陸軍将校団の大半を占める五将家閥に属するものが国家予算を食む部署へと大量に流入するのは自然の摂理であった。
 なにしろ五将家がその厳然たる権威を保つには自身の支配する州の適切な内政と閥に属する陪臣たちに昇進の機会を与えるという二つの難事をこなさなければならない。領地の運営が滞れば兵である領民達が天領へと流入するようになってしまうし、自身の家臣団たちに適切な昇進の機会を与えられねばそれは権限を奪い合う官僚的政治抗争においては敗北を認める事と同義であるし、そこまで主家に付き従う程に家臣たちの忠義を信じるべきではないだろう。
 要するに自身の権威と武力を構成する多くの者達を食わせ、自信の政治的影響力を保持する事が五将家の義務であったのだ。
 天領で
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