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IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜可能性の翼〜
第一章『セシリア・オルコット』
第十話『強き者(スルーズ)』
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の琴線に触れるには充分だった。
「お前がさ、どんなもの背負ってるかは、正直、想像もできない。
 でも『負けたら終わり』なんかじゃない、【やめたら終わり】なんだ……」
ふと、セシリアの中で何かが引っ掛かった。
修夜はもう、声を荒げたりはしていなかった。
だが修夜の発する言葉には、血肉が通っているような、確かな“熱”がこもっていた。
「お前が諦めちまったら、今までお前が信じてきたものはどうなっちまうんだ。
 死ぬ気で努力して、痛みや涙も呑み込んで、歯を食いしばって頑張ってきた“昨日までのお前に”、どう言い訳するんだよ…!」
まるで自分のことのように、修夜自身が自分に言い聞かせているように、セシリアに訴えかける。
「誰も笑うもんか、いや、俺が笑わせるものか…!!」
その言葉に、セシリアは伏せていた泣き顔をふいに上げ、修夜の方を見た。
膝に乗せた拳に、修夜は自然と力を込める。
「お前は、セシリア・オルコットは、間違いなく、今日まで俺が戦ってきた中で一番強い相手だ。
 代表候補生に相応しい腕と誇りを持った、【強き者(スルーズ)】の称号を持つ戦乙女(ヴァルキリー)だ…!」
それは虚飾も欺瞞もない、修夜の本音――。
「俺は今日、お前と戦えて嬉しかった。
 なにより、いつかエアリオルの力に調子づいて馬鹿を見ることを、今日のお前が防いでくれたんだオルコット…」
そういって、修夜はセシリアに向き直る。
「俺は、最初にISで戦った相手がお前だったことを、お前に感謝しているくらいだ――」
衝撃だった。
代表候補生になるために、セシリアは今まで何人ものIS操縦者と対戦してきた。
そこにライバル心は生まれこそすれ、喜びを、まして感謝を抱いたことなどついぞなかった。
そんな今までに遭ったことのない、どんな分類にも属さないあまりに潔い人間が、セシリアの前に確かに座っていた。
(こんな……、こんな人が……、世の中に……?)
真っ直ぐ自分に目を向けてくる修夜から、彼女は顔を逸らすことが出来ずにいた。
そこへ――
《連絡します。真行寺修夜君、間もなく第三試合となります。至急、試合会場に戻って下さい。繰り返します――》
校内放送で、修夜を呼び出す音声が保健室に響き渡る。
それを聞いた修夜は、小さく息を吐くとパイプ椅子から腰を上げ、セシリアに背を向ける。
そしてそのまま、セシリアに語りかける。
「――だから、ここでやめるなんて言わないでくれよ。
 そんなことをされたら、俺はお前の何に対して感謝できるっていうんだ……」
そう告げると、邪魔したと一言断りを入れ、開きかけたカーテンをくぐって修夜は保健室を後にした――。

修夜のいなくなったその場所には、窓から見える青空と、カーテンを揺らす風だけがあった。

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