アインクラッド編
その日、言うなれば――
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そうだ。そんなこと理解している。一年半も経てば誰だって分かる簡単な事実。ただ認めたくないだけだ。自分はそうやって目を背けなければ壊れそうだったから。――強くなかったから。
「それならさ、どうせ同じ時間この世界に留まる必要があるなら……楽しんだ方が得だろ?」
それも……周りのプレイヤーを、キリトを見てずっと《なりたい》と思っていた姿だった。
でも自分は臆病で、キリトのように誰かのために踏み出す勇気は無くて、サチのように変わろうと思う勇気もなくて、ただ思考を停止させて剣を振るわなければ潰れそうだった。
「このゲームに囚われて、それで絶望したらそれこそ茅場の思惑通りみたいでムカつくしな」
キリトの言っていることが正しく、自分の考えが間違っていることはアスカも自覚している。
だが、それを認めるのはアスカ――《結城明日香》のアイデンティティーの崩壊と同義だ。
それは今までの……向こうの世界での人生合わせ十六年の自分の生き方を否定するようで怖かった。
踏み出すことを恐れたのだ。
木漏れ日が思案顔のキリトを薄く照らす。そして、その言葉を告げた。
「だからなんて言えばいいのかな……この世界に《勝つ》じゃなくて……《超える》ようになりたいかな、わたしは」
「……超える?」
その言葉はアスカにとって革新的なものだった。
「ああ。この世界を楽しみつつ、攻略を進めて全員で向こうの世界に帰る。別にその二つを両立しちゃいけないなんて決まってないからな」
「……」
その言葉を聞いてアスカは呆然とする。
この世界で一日過ぎるたびに現実世界の自分の時間は《失われ》ている。
それがアスカに取っての常識だった。でも、今キリトが言った言葉を体現できるとしたらそれは……
「って、なに言ってるんだろうな……今のナシで」
「なあ……」
「サチにも言ったことなかったのにな。あー、恥ずかしい」
「……少し寝ていってもいいか?」
「そもそもアスカがちょっと体調悪そうだから心配しただけで、大丈夫なら別に……って、ええっ!? 寝るのか? 本当に?」
「……キリトが言ったんだろ」
そんな「びっくりだ!」と口をあんぐり開けて驚かれると、どうして誘ったのか疑問を覚えてしまう。
「い、いや、本気にすると思ってなくてだな……それにパーティーメンバーの方はいいのか?」
「メール飛ばしておくから問題ない」
「そ、そうですか。なら……ど、どうぞ?」
何故か疑問形で芝生を譲るような仕草をするキリト。そんなことせずとも木陰のスペースは三人以上並んでも余裕があるほどなのだが、どうやらキリトに取ってアスカが寝ていくことを承諾したのはかなりの驚きのようだ。
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