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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語
アインクラッド編
その日、言うなれば――
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が響く。

 ――この世界の全てが偽物、ただのデータの集まり、この世界での日々は時間の喪失だ、と。

 一方で、脳の感情を司る部分が小さな、それでいて響く声を発している。そしてそれは日に日に強くなっている気がする。無視できないレベルの抗議の声を上げている。

「……っ」

 またしても深く考えるのを恐れたアスカは大きく首を横に振った。まるでその感情を追い出すように。無駄だと知りつつも、せずにはいられなかった。
 そんなアスカの様子を少し心配するように見ていたキリトが呟いた。

「アスカは負けてないと思うけどな」

「そうか……?」

「少なくとも最前線でボス攻略総指揮官やってる人が負けてるってのはないだろ。それだとわたしやサチ、クラインとかどうなるって話だからな」

「……」

 そうだ。少なくともアスカはキリトや《月夜の黒猫団》、《風林火山》のメンバーがこの世界に負けているなどと思ったことはない。全員、生きる目標を持ち、前を進んでいると、羨ましかった。

 でも、だとしたら。

 自分と彼らの違いは何なのだろうか?

「なぁ……キリトはこの世界が楽しいか?」

 気付けば、口が勝手に動いていた。

「いきなりどうした?」

 本当に自分でもいきなりだと思うため何も言えない。だが、聞かずにもいられなかった。答える義理の無い、この世界に絶望している人間に対してなら不躾とも言える問い。だが、それでも――

「んー……そうだな。この世界が楽しいかどうかは分からないけど……今、この生活は楽しんでると思うぞ?」

「違うのか、それは?」

「茅場が作ったこの世界を楽しんでるかどうかはともかくして……みんなと攻略しながら生活していること自体は楽しいってことだよ」

「……そっか」

 そんなこと、現実世界でも一緒だ。あの世界……周りと競争することだけを目的とした世界を望んでいなくとも、その世界の中で少なくとも少数の人間とのふれあい程度はアスカも楽しいと思っていた。

「現実世界に帰りたくないわけじゃないけど……わたしはこの世界でみんなと知り合えてよかったって思う」

 それは……多分、アスカも一緒だった。こうして少しとは言え自分の心の内を話せるような人間など向こうの世界には殆どいなかったのだから。

「そもそも、さ……別にこの世界楽しんだからって負けるって訳じゃないだろ。いや……むしろこの世界を否定しても勝てる訳じゃないって思うけどな」

 その言葉はアスカの何か大切な部分に深く切り込んできた。
 キリトの言葉の続きをどこかで望んでしまっているアスカは何も言わない。更にキリトが言葉を紡ぐ。

「否定して拒絶して認めなくても……この世界は終わらないし向こうにも戻れない」
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