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豹頭王異伝
暁闇
マリウスの歌
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死去に深い喪失感を覚え、心を蝕む絶望の闇に苛まれ戦線を離脱した従者。
 サラミスに向け深い森と山中を騎行中の聖騎士伯、リギアが呟く。
 アルシス王家の守護者、ルナン聖騎士侯の息女も直感的に悟った。

 幼い頃から兄妹の様に育ってきた《弟》、アル・ディーンの歌。
 ナリスが再会を願い続ける唯一の実弟、イシュトヴァーンに面影を重ねた半身の歌である事を。
 もう戻る事は無いと思っていた傷心の地、マルガを振り返る。
 聖騎士伯リギアの分身、愛馬マリンカが走り出した。

 ダネインへ向け南下中の剽悍な草原の民、グル族の戦士達にも歌は届いた。
 太子様は、1人じゃない。
 私が傍に居る、私は何時でも太子様と一緒。
 愛する人の心に常に寄り添い、私は太子様を護り続ける。
 草原を吹き渡る透明な風の声、運命の女が遺した《想い》を歌声が支援《フォロー》。
 死者の残留思念が生者に届き、心の奥底に沁み込んだ。

(リー・ファ、其処に居たか)
 草原の鷹、スカールの眼が霞む。
「石の都の民にも、素晴らしい歌い手がいるのだな。
 草原の信義を踏み躙る輩など1人残らず、くたばってしまえと思っていたが。
 気が変わった、今の歌に免じ今一度だけ助けてやる。
 マルガに引き返す、夜が明けぬ内に離宮へ入るぞ!」
「ウラー!!」
 一度は完全に決裂した義を弁えぬ男を援ける為、2度と足を踏み入れぬと誓った石の都へ。
 スカールが馬首を返すと草原の戦士、グル族と愛馬達も一斉に疾風と化した。
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