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豹頭王異伝
暁闇
マリウスの歌
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活力を注ぎ込む歌。
 マリウスの歌声が光となり絶対零度の凍気、冷酷な波動に覆われ凍り付いた心に響く。
 歌の波動が恐怖と絶望の闇を照らし、精神を浄化する透明化現象の過程を励起。
 カルラアの戦士に秘められた秘蹟の力が、心を黒く染める感情を解凍する。
 心の内部から迸る感情が、外へと溢れ出す。

 闇が、薄れる。
 光が更に、流れ込む。
 暗幕の奥に、闇の中に。
 心地良い風が吹き、闇の衣が翻る。

 何処からか暁の光が射し、漆黒の衣に覆われ隠されていた影に届く。
 光を浴びた影が異なる形態へと変貌を遂げ、多彩な想念と豊穣な感情達が実体化する。
 暖かい温もりに包まれ、氷の世界が溶け出していく。
 遙か彼方で暁の風が舞い、不可思議な声が響く。

『貴方には全ての光と、全ての闇とを共に組み込んであります。
 光のみの解答も、闇のみの道も、共に誤りだと知りなさい。
 地上の闇ではなく、貴方の内に在る見果てぬ闇をこそ恐れなさい。
 貴方は不安と恐怖を煽る他者の声、侵入者を見破り心の王国を管理する調整者。
 心の裡に育まれる数多の感情達を護り、鍵を開ける刻を待ちなさい。
 暁の光は常に、貴方と共に在るでしょう』

 心が軽くなり、心が少し透き通る。
 硬直していた心が、柔軟さを取り戻す。
 マリウスの歌声が、流れる。
 徐々に、徐々に。
 力強く、響く。

 耳に、体に、心に。
 心が感情を溶かして行くにつれ、闇が薄れていく。
 歌と共鳴して、封じ込められていた感情達が歓喜の声を響き渡らせる。
 心の暗幕《カーテン》が不要となり、心の闇が確実に薄れて行く。
 マリウスの歌声が光となり、心に差し込む。

 光が心を照らし出すと同時に、心の暗幕《カーテン》が消える。
 闇が晴れ、光が溢れる。
 嘗て魔都ホータンの夜明け、朝の訪れを予告した即興の歌。
 マリウスの歌声、希望を伝える歌を初めて聴いた子供達の様に。
 何時しか聴く者、全てが涙を流していた。

 吟遊詩人の歌を聴いていたのは、ケイロニア軍だけではなかった。
 マルガの魔道師達も念波を増幅、己の想いを乗せ能力に応じ届く限りの心へ送信。
 相乗共鳴効果が生じ、近隣の住民達にも鮮明な映像を投影。
 心象《イメージ》と歌声は、人々の心に響き渡った。

 イェライシャが送信したシャオロン、リー・レン・レンの記憶は不可思議な作用を励起。
 魔道の心得を持たぬ人々の心に灯された希望の光は、夜空に瞬く星と同様に力弱くはあったが。
 1粒の水滴が集い海へと注ぎ込む大河となる様に、寄り集まり想定外の効果を発揮。
 不安に脅える人々の心に吟遊詩人マリウス、カルラアの戦士が奏でる希望の歌が響いた。

「ディーン様」
 アルド・ナリスの
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