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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
バケモノは猫をも喰らう
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の戦闘の中ではあまりにも大きな隙だった。
レンは突き出していた左手を引っ込め、身体をねじるようにして遠心力をブースとさせた右ストレートを何の躊躇いもなくクリティカルポイントである心臓めがけて叩き込もうとした。
その直前で硬直が解けたセイは、全力で身体を捻ってダメージを少しでも軽くしようとする。
しかし────
「ぐぁっ…………ッッ!」
奇跡的にレンの拳はヂッ!という音とともに胸部分を掠っただけだったにもかかわらず、セイの体はまるで丸太が真正面からぶつかってきたようなデタラメな衝撃とともに吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたセイは、草地の上を数回バウンドしながら奇跡的に薙ぎ倒されていなかった大木の幹にこれでもかというくらいに背を打ちつけた。
「ご………は……ぁッッ!!」
仮想の肺の中の空気が、丸ごと持っていかれる。
それっきり俯いたセイに、もうレンは関心を払わなかった。おざなりに視線を向け、黙ったまま足を踏み出す。
その足が地面に触れようとしたその瞬間────
「………………………っ」
前方の木立の向こう側に、ねっとりとわだかまる密度の高い闇。その向こう側から突如として桁違いのプレッシャーが迸ってきたのだ。
気のせいではない。
その証拠として、周囲の枝は強風に煽られたようにざわめき、葉ははらはらと舞い落ちる。
煽られる前髪の向こうを透かし見て、レンは必死に闇を見通す。
すると、まさにそれと同時に前方の闇は一人の影を吐き出した。
STR型なのにも拘らず、少し細身な体を漆黒の
重鎧
(
ヘビーアーマー
)
に包んだ男。
《宵闇の軍神》リョロウ。
その右手には、愛用の戦戟はなかった。ソレを見、レンは激しく喘いだ。
その手にあったのは、光の塊としか形容できない物だった。
ソレの形から見、先が三つに分かたれた矛………だろうか。
「リョロウ……にーちゃん。………それは……………」
半ば独り言のように呟いたレンの言葉に、《宵闇の軍神》は答えなかった。代わりに
「《
洪水
(
トライデント
)
》」
静かに呟いた。
判断は一瞬だった。
煉獄の炎を連想する黒き炎にその身をやつした鋼の糸が、縦横無尽にリョロウを襲う。そのどれもが、触れればただでは済まさないという意思を反映しているように黒く、ドス黒い。
だが、それをリョロウの持つ三又矛は何の衝撃音もなくその絶大なる攻撃を防ぎきる。
まるで、広大すぎる海の片隅に小石を投げ捨てたような物。波紋は一瞬だけ立つが、それは全体から見れば取るに足らない小さな事象。
自身の攻撃を全て防がれたことを視認したレンは、素直に腕を振ってワイヤーを袖口の中に納めた。
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