第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十九 〜新たなる告白〜
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った。
……さて、皆に話をせねばならぬな。
その前に、水でも被るとしよう。
そう思い、私は臥所を出た。
「ふう……」
冷たい水を浴びると、心身が引き締まる気がする。
湯も良いが、ここギョウには温泉がなく、この時代の薪炭は貴重品。
贅沢は慎まねばならぬ。
「主。お使い下され」
と、手拭いが差し出された。
「星か。早いな」
「……昨夜」
やや、拗ねたような口調だな。
「彩の事か?」
「然様。主の事、隠すおつもりはないでしょうが……」
「無論だ。他の者にも、包み隠さず話すつもりだ」
「ならば結構……と言いたいところですが」
そう言いながら、星は私の背を拭い始めた。
「……私とて、主を慕う気持ちは負けておりませぬぞ。今宵は、傍に参りますぞ?」
「ふむ……。それも、あの者らに話した上で、だな。そうであろう、稟、風、それに愛紗」
私が声をかけると、ぞろぞろと三人が姿を見せた。
「だから言ったのです。隠れるだけ無駄だと」
「むー。そう言いながら、稟ちゃんだって乗り気だったじゃないですかー?」
「全く……。何も、私まで巻き添えにしなくても良いではないか」
私は濡れた手拭いを絞りながら、立ち上がった。
「疾風が戻ったら、皆にも改めて話す。それで良いな?」
朝食に向うと、食堂では衝撃の事実が待ち構えていた。
「うわぁ……」
「これは……」
全員が、その光景に呆然と立ち尽くす。
食卓の上が、凄まじい事になっていたからだが。
……ただし、良い意味でだが。
「あの、まさかこれ全部を……?」
「そうだぞ、愛里。何か問題でも?」
「い、いえ……。ちょっと、意外でしたので」
彩は、少しばかり、胸を張った。
「武骨者だが、料理の心得ぐらいはあるぞ。殿、席に」
「……うむ」
私も内心では、少々驚いていたりするのだが。
品数もそうだが、盛りつけも豪快どころか、繊細さすら感じさせる物が、並べられていた。
「彩、食べていいのか?」
「ああ」
「じゃ、いっただきまーす!」
早速、鈴々が箸を取る。
そして、満面の笑顔で、
「すっごく、美味しいのだ!」
次々に平らげていく。
その様を見て、皆も箸を取り、口に運んだ。
「む。美味い」
「むう。これはなかなか……」
「ちょっと、彩さん。これ本当に彩さんが……?」
誰もが、唸っている。
彩の奴、取り柄がないなどと……全く、どの口が申すのやら。
「見事だぞ、彩」
「……は」
顔を赤らめながらも、良い笑顔を見せた。
その日から暫く、皆の指が妙に傷だらけであった事は、敢えて触れるまい。
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